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「このマンガがすごい!2015」オトコ編第1位記念インタビュー 大今良時『聲の形』【前編】あえて読者にわからない部分をつくった 

2014/12/11


人気漫画家のみなさんに“あの”マンガの製作秘話や、デビュー秘話などをインタビューする「このマンガがすごい!WEB」の大人気コーナー。

今回お話をうかがったのは、大今良時先生!

やんちゃなガキ大将・石田将也は、耳の聞こえない転校生・西宮硝子をいじめていた。だが、学級級裁判によって罪をひとりで背負わされ、今度は将也がいじめのターゲットに。そして数年後、自殺を決意した将也は、最後にもう一度だけ硝子に会おうと決意する。
「障がい」や「いじめ」など重い題材を取り上げ、丁寧に「人間」を描き続けてきた『聲の形』。幅広い世代から大反響を呼んだ衝撃作がついに完結を迎え、さらに「このマンガがすごい! 2015」オトコ編の第1位に!

本誌 『このマンガがすごい!2015』 でも8ページにわたって大今先生のインタビューを掲載していますが、それでも紹介しきれなかったお話も盛り込んだディレクターズカット版として、『このマンガがすごい!WEB』限定でお届けしちゃいます!

後編はコチラ

大今良時

岐阜県大垣市出身。

2008年「週刊少年マガジン新人漫画賞」に『聲の形』(読み切り)が入選。2009年『マルドゥック・スクランブル』(原作:冲方丁)で連載デビュー。

2013年に「週刊少年マガジン」に読み切り版『聲の形』(入選作のリメイク作品)が掲載され、同年に週刊連載作として『聲の形』がスタート。

 

作中に散見する「描かれているのに語られていない」ことの意図

――「このマンガがすごい! 2015」のオトコ編で第1位に輝きました。

大今 以前から「このマンガがすごい!」のことは知っていましたが、どうやって選んでいるんですか?

――アンケートです。いま約600人くらいですかね? マンガを読んでいそうな著名人や業界関係者に「今年(前年10月1日~当年9月30日)コミックスが発売されたマンガで、おもしろかったのはなんですか?」とお聞きして、それを集計してランキングにしています。それで今年は『聲の形』が1位になりました。

大今 そうだったんですね。とても光栄です。

絶賛発売中の『このマンガがすごい!2015』では、オトコ編第1位に輝いた『聲の形』大今先生のインタビューもたっぷり収録! ここでしか読めない制作秘話も盛りだくさん!

絶賛発売中の『このマンガがすごい!2015』では、オトコ編第1位に輝いた『聲の形』大今先生のインタビューもたっぷり収録! ここでしか読めない制作秘話も盛りだくさん!

担当 この作品は、じつは人気アンケートの浮き沈みがあまりないんです。正直に言うと、普段はそこまで高くはないです。だから、お話のターニングポイントになる回でグッと順位が上がると、「あ、ちゃんと読んでもらえていたんだ」って安心します。

――潜在的な読者はかなり多いんですね。

担当 ある時、読者の方から、「アンケートの設問が『おもしろかったもの』ではなくて、『すごいマンガを選んでください』だったら『聲の形』にまちがいなく入れます」、と言われて「なるほどなぁ」と。ですから「このマンガがすごい!」さんから1位の連絡を受けた時は、編集部としてもすごくうれしかったです。

――連載前の読み切りの時から話題になっていて、すでにいろいろなメディアからの取材を受けていますよね?

大今 はい、おかげさまで。本当は取材を受けるのは苦手なんですが……(苦笑)。

――それらを拝見していると、「いじめ」とか「聴覚障がい」について聞かれていることが多かったように見受けられました。今回はマンガの内容についてたっぷりお話しいただけたらって思います。

大今 ありがたいです

――単刀直入にお聞きします。作中で「描かれているが語られていない」ことが多いですよね。

大今 どういうことですか?

――石田母のピアスが……。

大今 ああ。そうですね(笑)。

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大今先生は作中で将也が気づいていないことは、ことさら印象的に描かないという。読者は「神の視点」ではなく、あくまで「将也の視点」で読み進めることになるのだ。このシーン気づいていた人、いました?” width=

大今先生は作中で将也が気づいていないことは、ことさら印象的に描かないという。読者は「神の視点」ではなく、あくまで「将也の視点」で読み進めることになるのだ。このシーン気づいていた人、いました?”

――石田母が西宮母に謝罪に向かうシーンなんですけど、会う前は両耳にピアスがあるのに、謝罪後は右耳だけピアスがなくなっていて、右耳の周囲に血が付着しています。母親同士の話し合いの場でなにか修羅場があっただろうと推測できるのですが、そのことについて作中ではいっさい語られません。こういったところが「(絵では)描かれているが(説明は)語られていない」箇所ですね。これらの意図をぜひお聞ききしたいな、と。

大今 主人公の将也が知りえないことは読者には知らせない、将也が気づいていないことは取りあげない、つもりでした。将也が注目していない事柄には、読者の注意を向けさせないようにしてました。

――それはどうして?

大今 主人公に感情移入して読んでもらうためです。感情移入しにくい、イヤな主人公ですからね(笑)。

――ただ、そういった点に気づくかどうかで、登場人物に対する印象が変わりますよね。物語の途中で「こういう人だ」と断定されるのは怖くありませんでした?

大今 怖いです。読者の方や、私の周囲の人が「こいつはこういうヤツだ」と言ってくれるんです。それはありがたいことなのですが、そのキャラクターの印象もまた、その読者のフィルターを通した人物像でしかないんで。

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――将也視点では「将也が知りえないこと」が語られませんが、同様に、どのキャラクターにも「その人物の視点からは知りえないこと」があるわけですよね。

大今 そうです。だから植野からすれば、硝子はすごくイヤな女に映っているわけです。

――石田母のピアスの件を例に出しましたが、こういった「将也が知りえないこと」の真相は、最後まで語られないんですよね?(※インタビュー時は最終回直前)

大今 語られないまま終わっていきます。なので、読者の方にいろいろと想像してもらえれば、と思います。

――「他人の立場になって考える」という言葉が、いかに難しいことなのか、あらためて実感させられます。「すごいことやってるマンガだなぁ」と思って読んでいたのですが、正直、たいへんですよね?

大今 まあ、苦しい時はあるんですけどね(笑)。ただ、この作品は「人が人を知ろうとすること、関わろうとすることの尊さ」がテーマでした。その行為はたとえ成功しなくても、尊い。バラバラに、それぞれの事情を抱えて、勝手に生きている人たち。それがテーマだからこそ、多面的なキャラクター描写、わからない部分も作るような描き方は、やらないと意味がないと思ってました。「こんなこと、効果あんのかなぁ?」と思ったりもしますが、やっぱりテーマに導かれているので、やらないといけません。


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