硝子の聴覚障がいを通して浮き立つ、「伝わらないこと」のもどかしさ
――もともと『聲の形』は、2008年の「週刊少年マガジン新人漫画賞」の入選作でした。通例であれば、入選作は「マガジンSPECIAL」に掲載されます。でも結局、2011年に「別冊少年マガジン」に掲載されましたよね。その後、2013年に「週刊少年マガジン」に読み切り版『聲の形』(入選作のリメイク)が掲載され、そして同年に連載版がスタートしました。いろいろと骨折りはあったと思いますが、あえて少年誌である「週刊少年マガジン」本誌での掲載および連載開始に踏み切った経緯をお教えください。
担当 僕は『聲の形』は、中学生・高校生にこそ読んでほしいマンガだと考えていたので、絶対に「週刊少年マガジン」に載せるべきだと思っていました。というより、それ以外の選択肢は頭にありませんでした。
――読者としては「よくぞ少年誌で!」という思いがありました。
担当 もちろん躊躇なく載せられたわけではありません。大部数の雑誌には、それだけ大きな責任が伴います。『聲の形』の力を信じていたからこそ、このマンガが読者を傷つける可能性について、編集部内で議論を尽くしました。ですので、そう言っていただけると本当にうれしいです。
――硝子の聴覚はどの程度なんですか?
大今 高度難聴です。聾(ろう)ではないが、徐々に難聴が進行して、今では右耳はほとんど聞こえない状態です。ですので、作中でも途中から右だけ補聴器をしなくなりました。
――このフキダシは、硝子の「きこえ」の度合いを示しているんですね。文字の右側のほうがより多く削れている。
大今 はい、右をより削ったのは、右耳の方が聴力が弱いからです。また、補聴器をつけているかどうかによってフォント(書体)も変えています。
――どうやって文字を削ったんですか?
担当 凄腕の製版技術を持つ、二葉企画さんにお願いしました。今はデジタル写植ですので、大今先生や僕がチョキチョキ文字を切ったわけではないんです。
――作中では手話もたくさん出てきますね。
大今 はい。全日本ろうあ連盟さんに監修していただきました。
――作中の手話には説明がありませんよね。だから将也が読み取ったとおりにしか、読者には伝わりません。将也が硝子の手話を間違って解釈している箇所とか、ひょっとしてあります?
大今 終盤で1箇所だけあります(第7巻収録)。間違って解釈している箇所は、それぐらいかな? 間違って解釈していたことが読者にもわかるようにしています。あと、これは読者に対する表現の問題ですが、やっぱりマンガは静止画なので、どうしても伝わりづらいところがあります。動作が似ているものなんかは特に。読者の方の感想を読んでいると、「うまく伝わってないなぁ」って感じることもありました。難しいんですよね。
――手話といえば、竹内先生が再登場時に手話を理解しているシーンも描かれていますよね。竹内先生は最初わかりやすくイヤなヤツとして登場した印象があったので、驚きもありました。
大今 まあ、竹内も精神的には成長してないですよ。少なくとも本人は絶対そう思っています。
竹内再登場シーンについて気になる方は、本誌の6ページへ!
後編はコチラ! 取材・構成:加山竜司
撮影:辺見真也