小学館文庫『究極超人あ~る』第1巻
ゆうきまさみ 小学館 \581+税
12月19日は漫画家・ゆうきまさみの誕生日。
現在は不死の種族「オキナガ」をめぐる物語『白暮のクロニクル』などを連載中。数々の話題作を描いてきた経歴とはうらはらに、もともとはプロの漫画家になるつもりはなかったのだという。
就職のために上京し、サラリーマンを続けながらアニメファンとして活動しているうちに、パロディマンガがきっかけでやがてプロの道へ……という、当時としては前代未聞のステップで商業デビューをはたしている。
今でこそ「ファンからプロへ」というルートは確立されたものだが、そのパイオニアのひとりにゆうきまさみは数えられるだろう。そして何より、現在も第一線で活躍中なのがすごい!
そんなゆうきまさみの出自が色濃く反映されている作品といえば、やはり『究極超人あ~る』だろう。
あらためてどういった内容か紹介しておくと、「光画部」(いわゆる写真部)を舞台にした、ジャンルとしては学園コメディにあたる作品。
主人公(いちおう)のあ~ることR・田中一郎は、アンドロイドなのだが、そこはさほど重要ではなく、どちらかといえばリアルな文化部ライフや、奇人変人の域に達している光画部OBをはじめとする、濃いキャラクターたちが起こす騒動がメインとなる。
本作の連載開始当時は、学園を舞台にしたマンガといえば、まだスポーツものなどが主流であり、文化部、それも「コンテストで賞を取る」だとか「ライバルと腕を競う」といった展開とはまったく無縁の、ゆる~いリアルな部活の空気感を切り取った作品は皆無だった。
そこに散りばめられた数々のアニメや特撮作品のパロディもまた、今ほどはオタク文化が市民権を得ていなかった時代に、写真部や美術部、映画研究会や文芸部の姿を借りて潜んでいた、当時のオタクたち(マンガ研究会のある高校は、まだまだ希少だった)の、まさに日常会話そのもの。
当事者たちにとっては、衝撃的に共感できるマンガだったと言っても過言ではない。
努力も勝利も、そして主人公の目的すらも存在しないマンガ自体が斬新だったのはもちろん、もし『究極超人あ~る』がなければ、無邪気にマンガやアニメや特撮を楽しむことをよしとするスタンスが、今ほど広まることもなく、もっと日本のオタク文化は日陰の存在のままだったかも……? とさえ思えるのである。
ちなみに、『あ~る』の作中にはゆうきまさみの友人や知人をモデルとしたキャラクターが数多く登場しており、「光画部」という特徴的な名称も、著者の出身高校に実在したもの。
しかし残念ながら、現在は一般的な「写真部」に改称されているそう。う~ん、なんとも残念。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。