新装版『説経 小栗判官』
近藤ようこ KADOKAWA \780+税
(2014年12月25日発売)
本作は、神仏について講じた中世の民衆芸能「説教節」の有名な演目『小栗判官』を、近藤ようこがマンガ化したもの。
1990年の単行本が初出で、2003年に文庫化。そして今回、新装版が刊行された。
内容は、美濃墨俣の正八幡に現人神(あらひとがみ)として祀られる小栗判官とその妻の、波乱万丈すぎる人生をつづる叙事詩で、大まかに3部構成。
大納言兼家に生まれた小栗が化蛇と姦通した罪で勘当。流れ着いた地で運命の美女・照手姫に婿入りするも義父に毒殺され……という、第1部。
続いて未亡人となった照手姫を中心にした、第2部へ突入。
照手姫が落ちぶれ、ある店の下女としてこき使われている頃、小栗は閻魔大王の裁きで現世返りする。ただし自分で動けない餓鬼になっており、もとへ戻るには熊野の温泉につかる必要がある。
僧侶が乗せてくれた車を他人に曳いてもらい、目的地へ近づく道中、相手を夫と知らない照手姫が愛する人の供養のため必死に車を曳く姿が、最大のハイライト。
照手が美しすぎるため、見物人が寄ってきて車が曳けないので、わざと物狂いの奇特な格好をする場面は、シンプルな絵柄が、ここぞと力を込めた時にみなぎるすごみで、読者の胸を突き刺す。
作中でもっとも生きた人間としての力強さを感じさせるのは、照手姫といって過言ではない。
そして熊野で復活した小栗と照手姫の再会から第3部となり、夫婦が死後に神となったことを告げて大団円を迎える。
こういう、「●●という神様は前世で皆さんと同じ人間でした、そしてこういう苦労をした後で神になったのです」と由来を紹介する話を、「本地物」という。
神への畏れと親しみ、両方を人々に伝える効果があり、現代人が他者に対して適切な距離感を見直すうえで、再評価できる形式かもしれない。
余談だが、最近にも超メジャーな「本地物」がアニメ映画になった。そう、高畑勲監督のスタジオジブリ作品『かぐや姫の物語』だ。
かぐや姫伝説も、もとは富士山に関係する神の前世譚が原型といわれるのである。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
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