千葉県市川市にある、マンガ好きなら知る人ぞ知る有名書店・ときわ書房の本八幡店。独特の区分けをされた棚、そして豊富な試し読みマンガを設置し、訪れたお客さんがおもしろいマンガを発掘できる、特徴的なコミックコーナーを展開している。
ここに足繁く通うのは、熟年のマンガ好きが多いという。今回は、本八幡店の東風寿美子さんに、マンガ好きの玄人がどんどん手に取っていくという、話題のマンガをうかがった。
ときわ書房八幡店 おすすめの4冊!!
『五色の舟』 近藤ようこ
『五色の舟』
近藤ようこ(画)、津原泰水(作) KADOKAWA/エンターブレイン \780+税
(2014年3月24日発売)
戦時を生きる見世物小屋の一座の旅が描かれた、今までにないSFファンタジー作品。このマンガは、作者の近藤ようこさんたっての希望で、原作の先生に依頼し実現したとのこと。原作小説をただ絵にしただけではない、近藤作品らしい美しくて夢のなかにいるような不思議な雰囲気が魅力的です。近藤さんの過去作品のどれにも似ていない、独特の作品であり、発売早々から非常に評判がいいです。
登場人物は「腕がないけれど、足が器用な少年」や、「2人が下半身を共有した姿で生まれ、片方が死んでもなお生き続ける美少女」など異形の者たちばかり。その異形が寄り合って“家族”となり、見世物小屋一座をしながら、懸命に明るく暮らしていく様子がたんたんと描かれています。
異形の姿をビジュアル化しているにもかかわらず、おどろおどろしくないのはすごい。作中、必ず当たる予言をするという半人半牛の怪物「くだん」を、一座の仲間にしようとするのですが、このくだんの登場から、物語がじわじわとファンタジーになっていきます。
この流れというか、お話しのもっていき方も見事! 一巻完結なのですが、結末は「めでたしめでたし」という感じではなく、ふわっと終わります。
作品全体に漂う静けさと妖しさに引き込まれたまま、読後もしばらく不思議な感覚から抜け出せません。
『たそがれたかこ』 入江喜和
『たそがれたかこ』第2巻
入江喜和 講談社 \580+税
(2014年5月13日発売)
アパートで母親と2人暮らしをしている、45歳のバツイチ女性の日常にスポットを当てた本作。 同作者の『のんちゃんのり弁』は男性にも好評でしたが、本作は女性の気持ちがリアルに描かれていることもあり、大人の女性に絶大な人気があります。人生の折り返し地点に近い年齢ではあるけれど、もう少し踏ん張りたいな、と思っている女性からの支持が高いんだと思います。
パート暮らしの主人公・たかこさん、一緒に暮らす老いた母、思春期の娘……リアルな生活感がにじみ出ているんですよ。
たかこさんみたいに、夜中にぼんやりと考えちゃうことあるなぁ、なんて要所要所で自分のことのように共感しちゃうところもありますね。たかこさんは若い男性歌手の深夜ラジオを聴いていてファンになるんですが、そこから勇気を出して髪を染めたり、少しずつ自分を変えていくんです。
近所の飲み屋のおじさんとも知り合うんですが、このおじさんがまた個性が強くて、おもしろいんですよ。出会い頭に「それでいいのだ~」なんて口ずさんでいたりして。
肩肘張らずに、人生を楽しむというか、もうちょっと人生で楽しいことがあるかもしれない、なんて思える「45歳乙女」必見の作品です。
「日刊マンガガイド」でのご紹介は、コチラ!
『中卒労働者から始める高校生活』 佐々木ミノル
『中卒労働者から始める高校生活』 第2巻
佐々木ミノル 日本文芸社 \571+税
(2014年1月29日発売)
正直まず感じたのが、「うまく描かれている」というよりは、「作家さんの描きたい思いが誌面からビシビシと伝わってくる!」という、最近では珍しいマンガです。久しぶりにぐいぐい引きこまれて、自然と読まされました。
タイトルどおり、中学卒業後すぐに工場で働いていた兄・真実(まこと)が、妹・真彩(まあや)に誘われて通信制高校に入学するお話です。
表紙だけ見るとラブコメっぽいというか、帯にも「青春ラブコメ」なんて書かれているんですが、今のところ、あまりラブコメっぽくはないですね。ぽよよんとした妹ちゃんがラブコメ要素を持ってるかな?くらいで。
それに、一般的な青春学園ものみたいな空気でもないんですよ。先生も出てきませんしね。いろんな事情を抱えた、年齢様々な登場人物が同級生になるんですが、しんみりした感じではありません。
主人公をはじめ、通信制高校に通う生徒たちは、普通の学園ものにはないキャラクターばかり。20歳のシングルマザーが、仕事とレポートに追われて、つい子供に当たってしまうシーンなんかは本当に泣けました!
とにかく、作家さんの描きたい思いが不思議と伝わってきます。こういう作家さんっていいですよね。あとがきに、作者の方がこの作品を描くに至った自身の経験なんかも話しているので、ぜひ読んでみてほしいです。
『10DANCE』 井上佐藤
『10DANCE』 第2巻
井上佐藤 竹書房 \648+税
(2014年4月7日発売)
今は「BL」という言葉が流通していますが、BLという言葉がなかった時代、つまり「耽美」の時代から読んでいる方たちが太鼓判を押しているマンガです。BLじゃなくて、耽美なんです! エッチシーン? ほとんどありません! 女性? 出てきます! でも、男同士の美しい恋愛(耽美)なんです!
スタンダードダンスとラテンダンスをそれぞれ得意とする2人の男性主人公が、それぞれの得意分野を教え合う、といったお話。当然、作中には女性のダンスパートナーも登場するのですが、男性だけでなく女性もすごく綺麗に描かれています。
人物だけでなく描写も緻密で、すごく丁寧なんですよ。たとえば、海外のダンス大会にも参加しているシーンでは、外国語で話しているということを表現するためにセリフが横文字になっているんです。芸が細かいですよね。
で、その大会でのダンスシーンがまた美しいんです! 最後のお辞儀をするシーンがお客さんに大好評。「このシーンよかったよねえ、萌えるよねえ」と、みなさん言っています。
描きこみがすごいので、なかなか話が進まず、1冊が出るまでも長いんですが、みなさんずっと心待ちにしていて、次の巻はいつ発売なのかもよく聞かれます。
本当に「うまい!」と感じる作品なので、BL要素関係なくおもしろいです。よしながふみ先生や今市子先生が好きな方なんかはきっと気に入るはずです。ぜひお手にとってみてください
ときわ書房から「アートまつり」のお知らせ!
9月下旬より「アートまつり」開催します。
青林堂工藝社より丸尾末広先生などのサイン本が入荷予定ですので、ぜひお越しください。
「このマンガがすごい!WEB」をご覧くださった皆様へのアンケートのお願い
ただいま、宝島社『このマンガがすごい!WEB』では、よりよいサイトの制作と運営のため、アンケートを実施しております。
アンケートにご協力していただけるかたは、下記リンク先にある専用のアンケートフォームから回答していただければ幸いです。