『アップルシードα』第1巻
黒田硫黄 講談社 \720+税
(2015年1月16日発売)
『茄子』や『セクシーボイスアンドロボ』、そして「遅筆」で知られる黒田硫黄の『あたらしい朝』以降4年ぶりの新作は、『アップルシード』だった!
士郎正宗の未来世界を、黒田硫黄が描く! って、え、な、なぜ黒田硫黄が!?
『アップルシード』は、士郎正宗のメジャーデビュー作にして、未完の名作SFマンガ。映画化もされ、ハリウッドのSF映画の作り手たちにも影響を及ぼしてきたといわれている作品だ。
映画版の最新作は、つい最近(1月17日)全国で公開されたばかりの『アップルシード アルファ』(監督:荒牧伸志)で、ややこしいのだけれど、その「スピンオフ作品」がこのマンガなのだ。
映画もマンガも、舞台は第五次大戦後の未来。
主人公である元SWAT隊員のデュナンと、恋人である全身サイボークのブリアレオスが、ギャングの仕事をしながら、やがて理想都市オリュンポスにたどり着くまでの、今までのシリーズの「前日譚」を描いた物語となっている。
黒田が使っているのは、筆一本。
SFマンガとは馴染まなそうな、骨太ならぬ「筆太」なタッチで描かれた「戦争によって破壊された未来社会」は、雑多で混沌としており、どこかノスタルジック。
独特のコマ割や会話のテンポと相まって、物語を前へ前へと進めてゆく。
もちろん、このマンガ単体でもおもしろく読むことができるが、デュナンとブリアレオスのキャラクターをおさえつつも、すっかり「黒田節」の世界を堪能、つづきを楽しみにするのもよし。実写でもアニメでもない「フォトリアル」という表現を使った、迫力のバトルシーンありの映画と、泥臭くも飄々としたマンガとの落差(というか、別物感!)を楽しむもよし。
ちなみにこの単行本、カバーをはずすと本家『アップルシード』へのオマージュの絵が現れるので、『アップルシード プロメテウスの挑戦』第1巻の単行本をお持ちのかたは、ぜひ見比べてみては。
<文・かとうちあき>
人生をより低迷させる旅コミ誌『野宿野郎』の編集長(仮)。野宿が好きです。だらだらしながらマンガを読むのも好きです。