『蝶のみちゆき』
高浜寛 リイド社 \926+税
(2015年1月30日発売)
艶やかな筆致と洗練されたストーリーテリングで、バンド・デシネ方面など海外からも評価の高い高浜寛の最新作。
幕末期の長崎の郭を舞台に、絶世の花魁“几帳太夫(きちょうだゆう)”の波乱に満ちた生涯が描かれている。
……と書くとシンプルな話のようだし、実際、マンガを構成する物理的な「ネーム」の量というのは多くないように思えるが、その読みごたえはシンプルどころかため息が出るぐらいに濃密。
主人公は絶世の美女でありながらなぜ苦界にいるのか、彼女をとりまく人たちの思惑はどこにあるのか、特殊な世界をまたぐ彼らのどこまでが「建前」でどこからが「本音」なのか……。複雑に入り組んだ人間関係をスキなく徹底的に作り込んでおいたうえで、必要最小限のシーンから情緒とドラマをにじませていくあたりがじつにうまい。
当時の医療を扱うシーンの時代考証的な情報処理も含め、「月刊コミック乱」連載作だけに、時代劇としてのクオリティも申し分なし。
作者の作品はけっこう初期から読んできているが、個人的には、大正末~昭和初期の風俗雑誌界隈を舞台にした前作『四谷区花園町』(これも傑作!)から本作に至る流れには、作者自身が追いかけてきたいろんな要素の集大成的な雰囲気を感じる。
作者の名前は延々と気になっていつつも、未チェックだった人(海外で先に人気が出る作家にありがち)、今が「読みどき」だと思いますよ!
<文・大西祥平>
マンガ評論家、ライター、マンガ原作者。著書に『小池一夫伝説』(洋泉社)、シリーズ監修に『ジョージ秋山捨てがたき選集』(青林工藝舎)など。「映画秘宝」(洋泉社)誌ほかで連載中。