『喝 風太郎!!』第3巻
本宮ひろ志 集英社 ¥562+税
(2015年7月17日発売)
山奥の古刹(こさつ)から下山した修行僧・風太郎が、世俗で現代人の悩みを聞き、念仏を唱え、そして仏教説話を引用した法話を説く……と、なんだかとっても抹香臭いマンガのように思うかもしれないが、最終的には風太郎が板っきれ1枚で竜巻を起こし、すべてをぶっ飛ばして力業で問題を解決する!
その竜巻アクションの唐突さとスケールの大きさに、それまでの説教や対話はなんだったのかとア然としつつも、なんとなく不思議と腑に落ちてしまうという、竜巻説教お悩み解決マンガである。
何を言っているのかサッパリ意味不明だろうが、基本プロットは『水戸黄門』的と言えばいいだろうか。
黄門様が庶民の問題に直面し、内偵し、悪事を暴き、悪役が逆ギレして襲いかかり、それを立ち回りで解決。いわば伝統的な1話完結型の物語スタイルだ。
それにしても本宮ひろ志らしい風呂敷の広げかたに驚かされる。
何しろ第1巻のラストでは、風太郎は人類滅亡の危機を救ってしまう。
竜巻を起こして地球に飛来した隕石を回避させるほどの偉業を成しとげているのに、2巻からもシレッと各地を放浪してはファミレス店長の愚痴を聞いていたりするので、話のスケール感が地球規模からご近所レベルまでグワングワンと行ったりきたりしているうちに、なんとなく悩むことのバカらしさと、そもそも悩みの大きさに大小の違いなんてないじゃなかろうかとか、それでも悩みは尽きない人間の性(さが)のようなものが浮かんでくる。いや、ほんとに。
すべてを吹き飛ばす風太郎の能力は、いっさいが謎のまま。
どうやらこの世界には、風太郎以外にも異能力を持った人間がいて、彼らを管理する組織(ジュネーブ奇跡生命生存委員会)が存在することが匂わされるのだが、そちらの設定はやはり詳しく説明されることがなく、なんとなく風まかせの風太郎の放浪は続く。
そしてその旅の最中、本宮ひろ志の歴代作品の主人公がゲストキャラとして登場し、風太郎と邂逅するのだ。
第1巻ではリストラマンガ『まだ、生きてる…』の岡田憲三、第2巻では『俺の空』の安田一平が登場。
そして最新の第3巻では『硬派銀次郎』の山崎銀次郎、『男樹』の村田京一、さらには『サラリーマン金太郎』の矢島金太郎が登場し、さながら「スーパー本宮ひろ志大戦」のような様相を呈している。往年の本宮ファンは必見だ。
マンガらしい荒唐無稽さも、どう処理したものかなんとも悩ましい読後感も、なにもかも引っくるめて、よくわからないけど心に引っ掛かるし、どこに行きつくのかサッパリ先が見えないから目が離せない。どうにも心を掻き乱される作品である。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。