集英社文庫『本宮ひろ志傑作選 男一匹ガキ大将』第1巻
本宮ひろ志 集英社 \543+税
1889(明治22)年12月30日、文明開化の明治日本で、とある法律が公布された。それが「決闘罪ニ関スル件」、いわゆる「決闘罪」である。
「仇討ち」や「果たし合い」を禁止する法律であり、制定以来、120年以上に渡って一度も改正されていないという、非常に珍しい法律だ。明治から大正、昭和と時代を経るごとに適用事例は減少し、一時は完全に「過去の遺物」となっていた。
しかし1980年ごろに暴走族ブームがピークに達すると、団体同士の抗争やヘッド同士のタイマンを取り締まる際に適用し、にわかに注目を集め、現在でも年に数件は適用されているというから驚きだ。
2013年、福岡警察署が当時中学生だった少年13人を決闘罪の疑いで書類送検したが、このとき少年たちはスマートフォン用のメッセージアプリ「LINE」で連絡を取り合っていたと報道されたことは記憶に新しい。いまのご時世、LINEが果たし状になってしまうのだ(さすがにスタンプで返事していたら笑うが……)。
さて、番長マンガの傑作といえば、本宮ひろ志『男一匹ガキ大将』である。永井豪『ハレンチ学園』とともに、創刊当初の「週刊少年ジャンプ」黎明期を支え、「ジャンプ」お得意の“対決主義”の礎となった作品だ。
本作の成功で、「ジャンプ」は後発ながら「週刊少年マガジン」や「週刊少年サンデー」を抜いて、雑誌発行部数(当時は公称発行部数)首位の座に躍り出た。
以降、本宮の元アシスタントや、彼の作風のフォロワーが「ジャンプ」誌上を席巻し、一時期の「ジャンプ」はさながら「週刊少年本宮ひろ志」といった様相を呈したほどである。
『男一匹ガキ大将』は、主人公・戸川万吉がケンカで日本全国の不良を従えていき、日本一の「総番」をめざす典型的な番長マンガだ。
しかし、『男坂』の日刊マンガガイドでも書いたように、物語冒頭で「個人の暴力の限界性」が示されるのが特徴的。
また、番長マンガでありながらも、ホームレスのネットワークを駆使して株屋と仕手戦を展開したり、少年院のなかで謎の人物を捜索したり、一大決戦を前に主人公・万吉が女に狂ったり……と、なかなか超展開続きで目が離せない。
やがて東西の不良を集め、富士の裾野で東西学生決戦が繰り広げられるが、物語展開に苦悩した本宮は、作中で主人公の腹に竹槍をブッ刺して「完」と大書。そのまま本宮は名古屋までバイクで逃亡した。
ところが本宮が掲載誌を見ると、「完」の文字が勝手に修正されていたという伝説がある(集英社文庫『天然まんが家』より)。
結果、富士の決闘以降も連載は続くことになり、最終的にはアメリカの財閥を敵にまわし、中東まで原油を買い付けに行くのだが(このあたりの展開は、のちに『サラリーマン金太郎』でもリトライしている)、現在入手可能な文庫版では、富士の決闘編までが収録されている。以降の物語は、電子書籍版を含め、現在流通しているもので読むことはできない。
もっとも、番長マンガとしてのケレン味や、対決モノとしての醍醐味は、富士決戦のあたりがピークなのだろう。
「ジャンプ」の対決マンガの源流ともいうべきオリジン、いま読んでも圧倒的に血がたぎるのは事実。ぜひともトライしてもらいたい。
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama