『PEACE MAKER』第13巻
皆川亮二 集英社 \600+税
(2014年9月19日発売)
皆川亮二といえば、代表作に挙げられるのは『スプリガン』や『ARMS』だろう。
それらに比べると、現在連載中の『PEACE MAKER』は、一見するとスタンダードな西部劇のように見えるせいか、ともすればやや地味な印象もあるのかもしれない。
いやいや、それが大きな誤解なんです!
『PEACE MAKER』の舞台となるのは、アメリカ開拓時代後期をベースにした世界。しかし、あくまで架空の世界の物語であって、登場するアイテムや出来事は、史実とはまったく合致していない。たとえば、さらっとカーアクションが描かれるのだが、劇中のようなスタイルの車やバイクが登場するのは、現実ではもっと後の話である。
そして、こともなげにゴルゴ13をも凌駕する狙撃や早撃ちを披露するガンマン(劇中では「銃士」と呼称される)たち、さらに「アースバウンド計画」なる原子爆弾開発計画まで登場するにいたっては、いい意味でトンデモの極地!
そんな「大ウソ」に説得力を持たせてしまうのが、皆川亮二の卓越した話運びと画作りの巧みさだ。「なんじゃこりゃ!」と無粋なツッコミを入れるよりも、この世界観に身をゆだね、ガンアクションや熱い物語の気持ち良さを味わいたくなる、上質の大ウソが本作の魅力と言えるだろう。
実質的な第2部となる単行本第8巻から、しばらくは「銃士による決闘」という要素は影を潜めていたが、前巻(第12巻)からは、世界最強の銃士を決める大会「G・O・D」がひさしぶりに復活。そこに登場する銃士のブッ飛びっぷりがヤバい!
ナチスを連想させる軍服に身を包む、片腕をサイボーグ化した銃士には思わず爆笑してしまったが、ほかにも下駄を武器とする坊主や、ブーメランで戦う原始的狩猟民族など、個性が極まりすぎた面々が多数出場。これを読んで、「えっ? 『PEACE MAKER』って、そんなマンガだったの?」と思われた人も多いはず。
それでいて、最新13巻では共に暗殺者である母と息子のガチでシリアスな対決なども描きつつ、物語の大きな本筋へもグイグイと迫る。
まさに今、最高潮の盛り上がりを見せる本作、「ふつうの西部劇」と勘違いしていた人も含めて、ぜひ読んでほしい。
<文・大黒秀一>
主に「東映ヒーローMAX」などで特撮・エンタメ周辺記事を執筆中。過剰で過激な作風を好み、「大人の鑑賞に耐えうる」という言葉と観点を何よりも憎む。