日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい！WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー！

今回紹介するのは『BL漫画家ですけど結婚してもいいですか?』

『BL漫画家ですけど結婚してもいいですか？』
藤本ハルキ 海王社 ￥850+税
（2015年9月10日発売）

非モテの女性マンガ家による婚活エッセイは確固たるジャンルとして定着したようだ。
しかも『31歳BLマンガ家が婚活するとこうなる』（御手洗直子）、『恋愛3次元デビュー ～30歳オタク漫画家、結婚への道。～』（カザマアヤミ）など、傑作が多いのも特徴。
脳内が「ホ」と「モ」の2文字で埋め尽くされているBL漫画家・藤本ハルキが結婚までの苦闘をつづった本作もまた、御多分にもれず大当たりだった。

高校時代に腐り始めた藤本は無事に（？）BLマンガ家としてデビューし、24時間ホモのことだけを考える生活を送っていた。
だがアラサーの季節が到来し、周囲の友人から続々と結婚報告が来るにつれ、「ひとりで生きていけるのだろうか？」という漠然とした不安が押し寄せてくる。

30歳を迎え、重い腰を上げて本格的に婚活に乗り出すも、「どうやって人って好きになるんだっけ？」というレベルから始めなければならない始末。
なにしろ青春時代のほとんどを“男同士のくんずほぐれつ”に捧げてきた身の上。合コンや街コンに参加するも、なかなか成果が上がらない。
そこで意を決して、入会金・約13万円＋月会費・約12000円の結婚相談所に入会してみるのだが……。

婚活エッセイのおもしろいところは、婚活を通してその人となりが浮き彫りになること。藤本は生粋の腐女子ではあるが、兄が2人いるせいか、男性に対して免疫がないわけではなく、合コンなどでは積極的にコミュニケーションをとるタイプ。
しかし、いざ初対面同士の会話というタイマンを張るに至ると、こじらせた自我が大きな壁となって立ちはだかるのだ。
婚活という大海原でもがき苦しみ、ギブアップ寸前で彼女がつかんだ僥倖の詳細は、本書をお手にとってお確かめいただきたい。

マニュアル的な要素は薄めだが、現在婚活中の方や、婚活をしようかどうか迷っている方には大きな励みになるはず。
もちろん「結婚なんて、人生の墓場でしょ」と余裕をぶちかましている諸兄や、勝ち組を気取った既婚者の面々でも、自意識と結婚の狭間で揺れる女心を描いた秀逸な人間ドラマとして、楽しめることうけあい！

＜文・奈良崎コロスケ＞
中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしているライター。「ルパン三世ぴあ」に参加。10月にスタートするルパン新シリーズの友永秀和総監督にインタビューしました。