日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『松本零士・戦場漫画クロニクル』
『松本零士・戦場漫画クロニクル』
松本零士 小学館 ¥1,800+税
(2015年9月2日発売)
松本零士が第2次世界大戦をベースに描いた短編「戦場漫画シリーズ」。
これまでに『ザ・コックピット』、『ハードメタル』、『ブルーメタル』、『ケースハード』、『コックピットレジェンド』など、タイトルや掲載誌を変えながらも30年以上にわたり発表されてきた、著者のライフワークともいえるシリーズ単行本未収録7作品を集成したファン待望の一冊が刊行された。
飛行機、戦車、機関銃など兵器の緻密かつリアリティあふれる描写から、メカマニアから絶大な支持を集めてきた本シリーズは、かつてはPTAなどから「戦争を美化するな!」という批判もあったというが、宮崎駿『風立ちぬ』同様に「機械工学(兵器)への憧れと恐怖」という著者自身の矛盾する感情がそのままに反映された作品群には、だからこそ一種鬼気迫るような迫力があり、ひとくちには言い表せない戦争への複雑な思いがヒシヒシと伝わってくる。
なかでも「帰還 影の老兵」の空虚で妙に乾いた読後感は、幾多ある「戦争もの」でも唯一無比。
オールカラーによる名場面ギャラリーに名ゼリフ集、著者インタビューに本シリーズに影響を受けたクリエイターによるメッセージまで、付録も盛りだくさん。
平和への祈りを風化させないという意味でも、著者のキャリアを振り返る意味でも、必読の一冊だ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69