『王様達のヴァイキング』第4巻
さだやす(著)深見真(協) 小学館 \596
(2014年6月12日発売)
他人とマトモに話もできないし、コンビニに勤めれば不器用で即クビ……。日々の憂さ晴らしのため、金融機関にサイバー攻撃を仕掛けるクラッカー(犯罪者)だった18歳の是枝。
だが、「世界征服が夢」という大金持ちのエンジェル(投資家)坂井と出会ったことで、彼の運命は変わりはじめる。
「そう、是枝は坂井とバディを組み、サイバー空間にはびこる悪と戦うことになったのだ!」……というような、バトルマンガ的な展開に走りはしない。
エンジェルは主人公に命令する上司ではなく、あくまで起業家がやりたい仕事にカネを出す人。戦いに逃げこむバトルマンガの主人公のような甘えは、是枝には決して許されず、「投資させるためのプレゼン」に頭を悩まさなければいけないのである。
ブラック企業に自殺に追いやられた技術者の残したパスワードを、是枝のウデと坂井のコネ(10分だけとはいえ、スパコンを使用する時間を確保!)で解き明かしたり、スゴ腕クラッカーとのソーシャルハックを混じえた戦いを繰り広げたり……。
2人の絆は深まったように見えるが、それはエンジェルが是枝という、投資に値する物件を見定めたにすぎない。
最新4巻のクライアントは、警視庁捜査二課。コンビニATMをめぐる攻防で、刑事ドラマ風の物語まで楽しめるフルコースだ。
本巻の見どころのひとつは、システムのソースをチラ見して「こいつはチョロいや」と舌を出す是枝のヤバさが引き立つシーン。さらに、PCと話せるが人と話せず、社会でゴミ扱いされる犯人との、深い共感もある。
神崎刑事の「君みたいな異常者が警察には必要なんだ。この国の古すぎる体制をぶち壊すために」という熱いセリフも、ハイテク犯罪についていけない古い体制がバレてしまった、現実の「遠隔操作ウイルス事件」にシンクロしまくりで驚きだ!
このまま警察専属の調査員になって、神崎刑事との「サイバー『相棒』」な展開も悪くなさそうだが、是枝の相棒は、あくまでエンジェルの坂井。
社会との接点を見出して犯罪者を超える是枝くん、成長したなあ!
<文・多根清史>
『オトナアニメ』(洋泉社)スーパーバイザー/フリーライター。著書に『ガンダムがわかれば世界がわかる』(宝島社)、『教養としてのゲーム史』(筑摩書房)、共著に『超クソゲー3』『超ファミコン』(ともに太田出版)など。