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【日刊マンガガイド】『南紀の台所』第1巻 元町夏央

2014/07/01


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『南紀の台所』第1巻
元町夏央 集英社 \648
(2014年6月10日発売)


ダイナミックさとデリケートさ、一見相反するこのふたつの要素はどちらとも料理には必要だ。
そう考えると、意外にも思える元町夏央とグルメマンガという組み合わせも、大いに納得である。

これまで、骨太だけれど滑らかにほとばしる描線で、あふれ出してはじけ飛ぶような衝動を、人間くさくも抒情的に描き出してきた元町。
本作『南紀の台所』では、その衝動が豊かな食材を前に、料理という形でチャーミングに描き出されている。

舞台は、タイトルにもある紀伊半島。東京生まれの東京育ちで、料理が趣味の円城寺蘭は、30歳になるまで東京でのシングルライフを楽しんでいたが、恋人・巴の転勤を機に、紀伊半島で結婚生活を送ることに。
地元を離れての不便な生活に、時に目に涙を浮かべて、時に腹を立てて落ち込む蘭。しかし、紀伊半島は豊かな食材の宝庫。かつおやタラの芽、シカ肉や天然ウナギなど、食欲や調理欲もそそる食材を前にすれば、蘭も一気に上機嫌に!

食べることとは暮らすこと。その基盤がないなかで、ただ豪華な食材や料理だけを見せられても、味はもちろん、魅力も感じられない。
そんななかで、分類としても謳い文句としても、間違いなく「グルメマンガ」となるであろう本作は、暮らしの描写を大事に描いている。だからこそ、食材も料理もおいしそうに、豊かに映えるのだ。

出会う人々、自然、事象も楽しげで、グルメには興味がないという人も、紀伊半島の暮らしの物語として満喫できること間違いなし。
作者も震災と原発事故を機に、夫の漫画家・一色登希彦とともに東京を離れ、現在、紀伊半島で暮らしている(その経緯と模様は、『東京を脱出してみたよ! 脱出編』に詳しく描かれている)。
実体験にも基づく、豊かな食材と料理、そして暮らしに、心躍る一作だ。



<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。

単行本情報

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