『幻想綺帖 二 玉藻の前』
岡本綺堂(作)波津彬子(画) 朝日新聞出版 907
7(な)と4(す)……という語呂合わせで、今日は"那須の日"。
「那須」と聞いてマンガ好き、あるいはオカルト好きが思い出すのは、栃木県那須町に伝わる"玉藻前(たまものまえ)"の伝説だろう。
周囲から硫化水素や亜硫酸ガスが吹き出す溶岩で、現在は観光名所となっている"殺生石"。それはかつて、絶世の美女・玉藻前に化けていた妖・白面金毛九尾の狐が、那須の野で討たれ、人間を恨んで巨大な毒石へと変化したもの……というのが、玉藻前伝説の概要。
玉藻前伝説に登場する九尾の狐や殺生石は、多くのマンガでモチーフとして使用されている。
真倉翔/岡野剛『地獄先生ぬ~べ~』や、岸本斉史『NARUTO-ナルト-』、椎名高志『GS美神極楽大作戦!!』、高橋留美子『犬夜叉』など、枚挙にいとまがないほどだ。
特に、玉藻前伝説そのものを真正面から題材とした、岡本綺堂の小説『玉藻の前』が原作の、波津彬子『幻想綺帖 二 玉藻の前』を忘れてはいけない。
この作品の根底にあるのは、九尾の狐に取り憑かれてしまった少女・藻(みくず)と、彼女と兄妹のように育った千枝松(ちえまつ)の、儚くも美しい恋。幻想的で心しみる「雨柳堂夢咄」シリーズで知られる作者ならではのタッチで、優美にして幽美な世界観が描き出されている。
一方、山田章博『BEAST OF EAST 東方眩暈録』も、岡本綺堂『玉藻の前』を原作としたマンガ。こちらは、藻を鬼王丸(原作および『幻想綺帖 二 玉藻の前』での千枝松)が救い出そうとする伝記アクションになっており、また違ったおもしろさがある。
さまざまに語られ、描かれてきた、那須の殺生石に伝わる玉藻前伝説。
伝説をモチーフにしたマンガ単行本を片手に持って、いつか実際に那須へと小旅行に出かけるのも一興かも!?
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Summer」が発売中。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。