365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
9月4日はくじらの日。本日読むべきマンガは……。
『ふらいんぐうぃっち』 第3巻
石塚千尋 講談社 ¥429+税
「日本鯨類研究所」(日鯨研)という機関がある。
クジラを水産資源として正しく管理するための調査研究を行う一般財団法人で、ここが2012年に制定したのが9月4日の「くじらの日」。
9(く)と4(し→じ)にかけているわけだ。
記念日の主旨は、日本人に何かと縁が深いクジラとの共生について改めて考えてもらおうというもの。
この共生には当然クジラを食べるという営みも含まれ、低脂肪で栄養豊富なクジラ肉の食用を日鯨研は積極的に推奨している。
現在、食用クジラ肉を得るのは調査捕鯨からの「副産物」というかたちになっているが、この情勢をふまえてあえて制定した面が大きい。
ところで、クジラと人間の関係はそうした生々しい次元のほかにもみられる。
海の哺乳類であること、現生動物で最大クラスの巨体、頭上の鼻から潮を吹く特性、高い知能など、魅力的な要素がつまったこの水生動物はちょくちょくフィクション作品……それもファンタジー方面に登場する。
特に(なぜか)人気があるのが、空高く浮遊して泳ぐクジラ。
大瀧詠一の歌で「空飛ぶくじら」という直球な曲があるほか、ゲームなら『ゼルダの伝説 夢をみる島』やアニメ化もされた『最終試験くじら』など様々な分野に散見されるモチーフだ。
マンガの世界を探してみれば、ちょうど最近の作品『ふらいんぐうぃっち』がそのものズバリだった。
本作は、青森県の弘前市を舞台に、修行中の新米魔女・木幡真琴(こわた・まこと)が高校に通いながら身内と過ごす田舎のスローライフを描いた日常+ファンタジー作品。『よつばと!』と『魔女の宅急便』のマリアージュなんてふうにもたとえられる近年の注目作だ。
その単行本の第3巻に、真琴が姉や親戚の幼女とともに、空を飛ぶクジラを見物に行くエピソードが収録されている(アニメ版では第11話)。
本作のクジラはちょっとした島ほどのサイズがあり、その巨大な背中の上には、かつてだれかが住んでいた証となる建造物の痕跡を残している。
通常の人間の目には映らず、ただゆっくりと世界中の空を巡遊する途上、真琴たちの町の上を通過し、ひと時彼女たちが乗りこんで遺跡を見学するのを許してくれるのである。
体の大きさという空間性に、遺跡という時間性をかけあわせた本作のクジラの描写はまことにみごと。
ぜひこれを読んで空飛ぶクジラというモチーフの魅力にふれ、ひいてはクジラ自体についても考えるきっかけとしていただければと思う。
ところで、以下は完全な余談。
クジラとイルカの違いというのをご存じだろうか?
じつはどっちも鯨類のクジラ目ハクジラ亜目で同じカテゴリーなため身体の作りに違いはなく、だいたい3メートルより大きい種類はクジラ、それより小さければイルカ……なんだとか。
そんなざっくりな!
<文・宮本直毅>
ライター。アニメやマンガ、あと成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム30年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論』(総合科学出版)。『プリキュア』はSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7