複雑化する現代。
この情報化社会では、日々さまざまなニュースが飛び交っています。だけど、ニュースを見聞きするだけでは、いまいちピンとこなかったりすることも……。
そんなときはマンガを読もう! マンガを読めば、世相が見えてくる!? マンガから時代を読み解くカギを見つけ出そう! それが本企画、週刊「このマンガ」B級ニュースです。
今回は、「ベッキー、髪切って服着替えて完全リニューアル」について。
ベッキーだよっ!!
みんな、ベッキーが帰ってきたよッ!!
9月29日付の日本経済新聞の朝刊に、タレントのベッキーさんを起用したカラー広告が掲載され、大きな反響を呼んだ。
ベッキーさんは上半身に何も身につけていないセミヌード姿であり、しかも長かった髪をバッサリとショートにしていた。
この写真と「あたらしい服を、さがそう。」のキャッチコピーからは、これまでとは違う自分になろうとする心機一転の心境が見て取れるのではないだろうか。
気になる広告主は、な、なんと宝島社ッ!!
ちょっとちょっと、どういうことなのよ!
さっそくこのマンガがすごい!編集部に事情を問い合わせたところ、「私たちも朝のTVのニュースで知ったんですぅ」などとボヤボヤした回答の編集長氏。
なんでも宝島社の公式なアナウンスによると「ファッション雑誌のリーディングカンパニーとしてファッション業界をよりもりあげていきたいという想いから当広告を実施しました」とのこと。
ファッション雑誌のリーディングカンパニー!
そう、宝島社は、いまや複数のファッション誌を発行するオシャレな出版社なのだ!
その隅っこの、陽当たりの悪そうなところでサブカル系の本ばっかり作っているこのマンガがすごい!編集部は、イゾラド(文明と接触したことのないアマゾンの原住民)のようなもの。イゾラド編集部員たちが、会社のトップシークレット的扱いのファッショナブルな広告について何も知らされていなかったのは、それは仕方のないことだ。
といったわけで今回は、ファッションには無頓着な人たちだって「あたらしい服を、さがそう。」という気持ちになれそうな、脱イゾラド系マンガを紹介していく。
『服なんて、どうでもいいと思ってた。』 第1巻
青木U平 KADOKAWA ¥552+税
(2015年2月23日発売)
ファッション弱者の気持ちを最大限に代弁してくれているのが、青木U平『服なんて、どうでもいいと思ってた。』だ。
主人公の花月カヲルは、顔はイイのにファッションセンスはゼロ。
盆栽雑誌の編集者だったが、何の因果か、人事異動でファッション誌「Louie Louie(ルイルイ)」編集部に配属されてしまった。
同誌は20代前半の女性向け赤文字系ファッション誌で、ユルフワ系女子のバイブルである。
いわば「リア充日本代表」のなかに放りこまれてしまったのだが、彼の仲間となるC班のメンバーは、映画雑誌出身、ボクシング雑誌出身、ハードコアエロ雑誌出身と、いずれもファッションとは無縁の男ばかり。
彼らボンクラ男子は「ダサい服でも入れる店でダサい服を買う」ので「ダサイい服ループの住人」なのだと自己分析する。「オシャレな店員さんが怖い」の叫びは、ファッション弱者の全員に共通する悲痛な思いだ。
しかしまぁ、要するにそれは自意識の問題ではないか、という気もするのだが。
『裸で外には出られない』
ヤマシタトモコ 集英社 ¥648+税
(2012年8月24日発売)
『裸で外には出られない』は、ヤマシタトモコによるコミックエッセイである。
ヤマシタトモコといえば、『このマンガがすごい! 2011』では『HER』と『ドントクライ、ガール』でオンナ編の1位と2位を独占したことは記憶にあたらしい。
スタイリッシュな描線からおしゃれな雰囲気を漂わせるが、著者自身は「オタクがバレない格好がしたい……」と願ったところがファッションの原点とか。やはり「オタクがバレない」という部分に自意識の問題が見てとれる。
本作では、著者が友人たちに聞きとり調査をし、さまざまな“やっちまった”的なファッション黒歴史が開陳されていく。
その黒歴史の数々に思わず笑ってしまうのだが、そうした黒歴史はファッションと格闘して取り組んできた記録でもある。
戦わずして笑うなかれ、みんなそうして己のスタイルを磨いていったわけである。
黒歴史にも向きあうヤマシタ先生、格好いいぜ!
『アパッチ野球軍 オンデマンド版』 第1巻
花登筺(作) 梅本さちお(画) 少年画報社 ¥900+税
(2005年7月28日発売)
それにしても『服なんて、どうでもいいと思ってた。』と『裸で外には出られない』は、どちらも自意識の発露が感じられるタイトルである。
だがちょっと待ってほしい。
本当に、
裸 で 外 に 出 ら れ な い の だ ろ う か ッ ?
かつて日本中の男子諸君を猛々しく鼓舞したあの作品を思いおこせ。
俺たちゃ裸がユニフォームッ!!
そう、『アパッチ野球軍』(花登筺・作 梅本さちお・画)であるッ!
高校野球で有望視されながら、選手生命を絶たれてしまった主人公・堂島剛は、指導者として、過疎の村で不良少年たちに野球を教えることになる。
じつは堂島剛が高校野球で活躍した時代は『エースの条件』(原作:花登筺、作画:水島新司)という作品で描かれている。この作品は、野球マンガの雄・水島新司にとって最初の本格的な野球マンガであり、マンガ史的に見ても記念碑的な作品なのである。
『アパッチ野球軍』は、夢を絶たれたかつての英雄(堂島)が子どもたちに夢を託す……と一見すると美談のような物語構造でありながら、そのじつはダム建設をめぐる賛成派と反対派がみにくい争いを展開するという、社会派ドラマとしての顔を持つ。
作品の舞台となる猪猿村(架空の村)は、愛媛県松山市から20里ほど離れた山中にあり、作中では「文明にとざされたへんぴな村」とも称される。まさにイゾラド!
グラウンドの岩をダイナマイトで爆破する「ハッパ(発破)」、賛成派と反対派のあいだをいったりきたりする「コウモリ」、父親が刑務所帰りでナイフの名手の「網走」、木こりの息子の「材木」など、個性的な生徒たちが、い~っぱい登場する。
そんなアパッチな連中のファッションに注目すると、エースの網走はテンガロンハットで、腹にはさらし巻き。オケラは上半身裸で保護帽(ヘルメット)。
誰か、彼らにあたらしい服を探してやってくれ!
われわれは裸では生きられない社会的な生き物である。
社会で生きるために、ファッションにあれこれと頭を悩ませたり、着飾ることを楽しんだりもする。
しかし一方で、裸には本人の生き様があらわれる。
たまにゃいろいろなものに追われるけれど、ファイトひとつが財産ですぜベッキーさん!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama