日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『シンガポールのオタク漫画家、日本をめざす』
『シンガポールのオタク漫画家、日本をめざす』
フー・スウィ・チン KADOKAWA ¥1,000+税
(2016年9月22日発売)
シンガポール共和国にて、日本のマンガに耽溺しながら成長した著者が、日本で漫画家デビューをめざすコミックエッセイだ。
日本と同じアジア圏なのに、知っているようで意外と知らない国・シンガポール(せいぜい、マーライオンくらいか?)。著者が描き出す母国について、受ける印象はざっくりと「合理主義の国」。
ビニール袋で汁ものを売り、多言語が混在する「シングリッシュ」で日常会話をしているそうだ。
そんな著者は日本大好き。
マンガを通して見たイメージから「パンをくわえて走る高校生」を探したり、「買い物袋からはみ出すネギ」を再現したり、などのエピソードも笑える。
さらに日本の好きなところも描かれ、読む側には魅力再発見、というところだ。異文化に接して湧きあがる独特の空想も、日本人がすでに失った純粋さがあり、かわいらしい。
ただ、日本まで来るからには、オープンな性格かと思いきや、著者は基本「引きこもり」だそう。
コミュニケーションの苦手ぶりと、それゆえマンガのキャラが心の支えだった思い出は、国境を軽く飛び越えて共感を誘う。
著者はすでにシンガポールでは会社でデザイナーとして仕事につき、セリーナ・バレンチノ原作のオルタナティヴ・コミック「Nightmares & Fairy Tales」に参加するなど実績もある。
それでも、いざ日本の出版社に持ちこみをしてみれば、厳しいダメ出しの嵐が……。
マンガとともに人生を歩んできた彼女にとっては過酷すぎる「まんが道」だった。
そこからの復活に、泣ける。
「夢はきっとかなう」。
陳腐かもしれないが、やはりマンガには欠かせない永遠のテーマだ。
報われる瞬間を、ぜひ見届けてほしい。
<文・和智永 妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWEB記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生に関わる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。