このマンガがすごい!WEB

一覧へ戻る

【日刊マンガガイド】『チェイサー』第2巻 コージィ城倉

2014/08/13


chaser_s02

『チェイサー』第2巻
コージィ城倉 小学館 \552+税
(2014年7月30日発売)


昭和30年代前半を舞台に、天才・手塚治虫を勝手にライバル視し、追跡する漫画家がいた。
彼の名前は海徳光市。自称「特攻隊くずれ」の、戦記物を得意とする漫画家である。

第1巻ラストでは、手塚の仕事ぶりに興味を持つあまり、ついに身分を偽って手塚邸に潜入! もはやチェイサー(追跡者)というよりもストーカーすれすれで、思わず「ちょっと! この人、大丈夫なの!?」とツッコまずにはいられない。

一歩間違えばスティーブン・キングの『ミザリー』になりそうな、そんな情熱と狂気こそが海徳さんの魅力でもある。最新刊の第2集でも、海徳さんのチェイサーぶりは健在だ。
アシスタントを雇って連載本数を増やしたり、旅先から電話でアシスタントに作画の指示を出したりと、伝聞の「手塚伝説」をイチイチ真似して実践検証するあたり、海徳さんアンタ、そーとー手塚を意識してんのね(「俺は手塚と張り合ってねー!」と言われそうだが)。

さらに手塚治虫の新婚生活をまのあたりにした海徳さん、なんと今回は「嫁取り」に挑む! はたして彼は結婚できるのだろうか……?

手塚伝説をひととおり真似するチェイサーではあるものの、決して妄信的なドリーマーにならず、身の丈をわきまえて「俺の城」を築こうとする海徳さんは、地に足の着いた生活者でもある。
努力家で研究熱心で、質実剛健。ちょっと奇行は目立つものの、いい家庭人になるかも!? 漫画家としてのサクセス・ストーリーにも注目したい。

ちなみに今巻では、『鉄腕アトム』の「電光人間の回」で、石森(石ノ森)章太郎が作画に加わっていることを、海徳さんが指摘するシーンがある。じつはこれも有名な手塚伝説のひとつだ。
締め切りに追われた手塚は、当時高校生だった石森章太郎に電報を打って、アシスタントを要請した。一度は上京した石森青年だったが、手塚の原稿がなかなか上がってこなかったため、下書きの原稿を持って帰郷。
背景を手伝う約束だったが、異常に筆の速い石森青年は「期末試験をうけながら、その原稿にペンいれをした。背景だけではものたりず、人物までいれて、返送した」(石ノ森章太郎『石ノ森章太郎の青春』[小学館文庫]より)。
しかし、さすがに人物まで石森作画というわけにはいかず、実際に掲載された「電光人間の回」(光文社『少年』昭和30年1月号付録)は、手塚が人物をすべて描き直している。以降、手塚は石ノ森に、2度とアシスタントを頼むことはなかったという。

絵のタッチのわずかな違いに気づくことからも、海徳さんのチェイサーぶりがうかがえる。そして賢明な読者諸氏に声高に宣言しておこう。

この人物は実在した!



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでのマンガ家インタビュー(オトコ編)を担当しています。

単行本情報

  • 『チェイサー』第2巻 Amazonで購入
  • 『チェイサー』第1巻 Amazonで購入
  • 『おれはキャプテン』第1巻 Amazonで購入

関連するオススメ記事!

アクセスランキング

3月の「このマンガがすごい!」WEBランキング