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『エスパー魔美』第1巻 藤子・F・不二雄 【日刊マンガガイド】

2017/04/03


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『エスパー魔美』第1巻


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『エスパー魔美』第1巻
藤子・F・不二雄 小学館 ¥429+税
(2017年2月28日発売)


『エスパー魔美』は、ごく平凡な中学生・佐倉魔美がある日突然超能力に目覚め、賢いクラスメートの高畑くんにアドバイスをもらいながら、困っている人を手助けしていく物語。
藤子・F・不二雄らしい日常SFをベースに、お人よしで飾らない性格の魔美の活躍が描かれる。1987年〜1989年にはテレビアニメ版が放送された。


藤子・F・不二雄作品としては珍しく、中学生を主人公としている。これは、『魔美』の連載誌「マンガくん」が小学校高学年~中学生を対象としていたため。
画家であるパパのモデルを務めるべく、魔美がときおり裸になるのも、時として結末に一抹のほろ苦さがブレンドされるのも対象年齢の高さゆえなのだ。

ちなみに藤子・F・不二雄の連載作品で女性が主人公なのは、『ゆりかちゃん』(1954年)、『オバケのP子日記』(1966年・藤子不二雄Aとの合作)以来。『魔美』(1977年)のあとに『チンプイ』(1985年)を描いているので、およそ10年ごとのペースで女性主人公を描いてきたことになる。

漫画界で「~なのだ」といえばバカボンのパパが思い浮かぶだろうが、魔美もなかなかの「なのだ使い」である。第1巻に収録されている「勉強もあるのダ」というサブタイトルにもあるように、かなりナイスな「~なのだ」をちょくちょく繰り出してくる。

1巻でいえば「ああ! エスパーおマミの夢はかぎりなくふくらむのダ!!」とか、「ママは朝売新聞の外信部にお勤めしているのだ。ごくろうなのだ」とか、「パパは公立高校の美術の先生をしているのだ。これまた、ごくろうさまなのだ」などがその代表例(いずれも「超能力をみがけ」)。

ベスト「のだ賞」は、「わるいけど、部分テレポーテーションでおしっこだけ幸子さんのなかに転移させたのだ。これでやすらかにねむれるのだ」(第3巻「地底からの声」)、「しっぽをふってかけつけるのダ」(第4巻「ずっこけお正月」)、「みえないところのおしゃれも、だいじなのだ」(第5巻「地下道おじさん」)あたりが覇を競いあうことになるだろうか。きっとなるのだ。

そうそう、超能力に目覚めたばかりの魔美が自分の活躍を過大に妄想する「エスパーおマミ」ネタが楽しめるのも、第1巻だけの特権。国際的に暗躍する黒幕が出入りするカジノでチャイナドレスで勝負したり、ダイヤ密輸組織のアジトのクラブにバニーガール姿で潜入したりと、まさに厨二病的な妄想を炸裂させている。

1巻だけの特権といえば、魔美と高畑の仲の良さに嫉妬する黒雪妙子の活躍もこの巻だけのお楽しみ。ポニーテールに網タイツ、切れ長の目に長いまつ毛、超勝ち気でちょっと不良っぽい…と、藤子・F・不二雄作品にあまり頻繁には登場しないタイプ。
勝手に高畑を賭けて魔美と始めたポーカー勝負に負け、「殺してやる」とブチ切れた挙句「キーッ」と叫びながら飛びかかっていく戦闘的なスタイルで、ほかのFヒロインにはなかなかない魅力を見せつけてくれる。登場するのは1巻に限られているので、黒雪妙子の魅力のすべてがこの巻だけで満喫できるのだ。


新装版てんとう虫コミックスのシリーズは、『藤子・F・不二雄大全集』時に原稿からダイレクトにスキャンした新規データを使っている。新装版『エスパー魔美』も、以前出ていた「てんとう虫コミックス」の単行本よりも大幅に画質がアップしており、黒雪妙子の網タイツ+トーンも高画質で再現されている。すばらしい。

人間関係の描写もきめ細かい。
魔美の超能力のコーチ役を買って出る高畑くんは、当初自分が超能力を得たと勘違いしている。喜んでいる高畑くんを前に魔美もいい出すきっかけを失ったまま話が進んでいくのだ。
事実を知った高畑くんは自分の迂闊さを恥じ、一時的に魔美と距離を置くようになる。
登場人物のコミュニケーションが丹念に描かれ、人間関係が築き上げられる様子にたっぷりとページが割かれているのも本作ならではの魅力だ。


また、近年ネット上でもセリフがたびたび引用され有名になった、“批評する側に批評する権利があれば、批評される側にも怒る権利がある”と、魔美のパパが演説する「くたばれ評論家」も収録されている。
このエピソード、評論家の剣鋭介が語る「たとえ、飲んだくれて鼻唄まじりに描いた絵でも、傑作は傑作。どんなに心血をそそいで描いても駄作は駄作」という言葉にも一面の真実があり、考えさせられる部分が多い。

そのほか、思い出のなかだけに温もりを見出す老齢期の2人に、魔美が取り持つ不思議な縁がほのかに前向きな気持ちを灯してくれる「名画(?)と鬼ババ」や、エスパーおマミなら「精神竜巻(サイコ・ストーム)」とでも名付けそうな派手な超能力シーンが楽しめる「春の嵐」など、値千金な傑作ぞろい。

鮮明な画質が楽しめる新装版で、ぜひ!



<文・秋山哲茂>
フリーの編集・ライター。怪獣とマンガとSF好き。主な著書に『ウルトラ博物館』『ドラえもん深読みガイド』(小学館)、『藤子・F・不二雄キャラクターズ Fグッズ大行進!』(徳間書店)など。構成を担当した『てんとう虫コミックスアニメ版 映画ドラえもん 新・のび太の日本誕生』が発売中。4コマ雑誌を読みながら風呂につかるのが喜びのチャンピオン紳士(見習い)。

単行本情報

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