日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『あしたのあさは星の上』
『あしたのあさは星の上』
石ノ森章太郎 Pヴァイン ¥2,963+税
(2017年3月17日発売)
巨匠・石ノ森章太郎は、マンガのみならず、『仮面ライダー』をはじめ特撮番組の企画に数多く関わったことでも知られる非常に守備範囲の広い作家である。
その仕事の全貌を追うのはかなり困難だが、なかでもかなりレアな作品がこのたび復刻された。1967年に「SFどうわシリーズ」(全9冊)の1冊として刊行された本作は、石ノ森章太郎自身が文章と挿絵を手がけた児童向けの読みものなのである。
筒井康隆、福島正実といったSF界の重鎮、寺村輝夫、佐藤さとるなど児童文学の大御所が居並ぶラインナップに、いくら売れっ子とはいえ漫画家が名を連ねているのはいささか異色の感もある。
小学校低学年でも読めるレベルの物語で――つまりまだ「作家名」で本を選ぶ年頃ではない読者を対象としたこのシリーズで、石ノ森を起用した編集者は慧眼(けいがん)といえよう。
舞台はアメリカのとある架空の田舎町。
主人公の息子である白人のぼうやに、家の使用人である黒人農夫ののチョコレートじいやが語って聞かせる不思議なお話の数々……と、ほのぼのしたムードで進んでいくが、中盤から地球がピンチにさらされるスリリングな展開に。
そのなかに人種差別問題、社会への疑問、宇宙の概念などを伝えるメッセージが織りこまれている。 ふんだんな挿絵には、いわゆる石ノ森マンガ的なタッチもあれば童画的なタッチ、また想像力を喚起させられる抽象的な絵もあり、あらためて石ノ森の表現力の豊かさに驚かされる。
石ノ森のデビューは高校在学中の1954年。
またたく間に人気漫画家となり、60年代に『サイボーグ009』を描き、今も読み継がれる『石ノ森章太郎のマンガ家入門』を発表した。
実験作といわれる『ジュン』のような作品にも挑戦する一方、70年代には学習雑誌「科学」にも多くの学習マンガを描いている。
のちに石ノ森は己のマンガを「萬画(=無限の表現が可能なメディア)」と名づけたが、まさに本作はありとあらゆる世代に向けて萬画を描き続けた石ノ森の「伝えたい」という志がしみわたってくる1冊なのである。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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