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『まんが道 大解剖』 藤子不二雄A 【日刊マンガガイド】

2017/04/16


日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!

今回紹介するのは、『まんが道 大解剖』


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『まんが道 大解剖』
藤子不二雄A 三栄書房 ¥907+税
(2017年3月3日発売)


藤子不二雄Aの『まんが道』と続編『愛…しりそめし頃に…』は、満賀道雄(モデルは藤子不二雄A)と才野茂(モデルは藤子・F・不二雄)の2人が故郷の高岡から上京し、豊島区のトキワ荘で暮らしながら漫画家を志す物語。

途中、掲載誌やタイトルを変えつつも、1970年から2013年まで43年もの長きにわたって描かれ続けてきた。

手塚治虫に憧れて漫画家を目指す青年2人の立志伝がメインストーリーであるが、戦後マンガ史の“レジェンド”(石ノ森章太郎、赤塚不二夫らトキワ荘グループ)たちの青春譚であったり、あるいは綿密な資料や日記に裏打ちされた昭和30年代の文化風俗史としての側面をもあわせ持つ。
のちの漫画家にも多大な影響を与えた、マンガ史に燦然と輝く不朽の名作である。

本作『まんが道 大解剖』は、そんな『まんが道』と『愛…しりそめし頃に…』のガイドブックである。

「藤子不二雄A監修」と銘打っているように、藤子不二雄Aのロングインタビューを筆頭に、当時の担当編集者の証言やカラーイラストの数々が収録されており、その資料性は極めて高い。

「完全ストーリーガイド」と「キャラクター紹介」の項ではストーリーが簡潔に要約されているので、かつての読者なら「あった、あった」と思い出しながら読むことができるし、これから触れる読者にはこの壮大なサーガを読み進めるうえでの足掛かりとなってくれるだろう。

また、さいとう・たかを(『ゴルゴ13』など)のインタビューが収録されている点も興味深い。さいとう・たかをはトキワ荘グループと明確に異なる“まんが道”を歩んだ同時代人である。
こうした“外からの視点”も含めて、『まんが道』と『愛…しりそめし頃に…』を多角的に“大解剖”する1冊となっている。

本作に掲載されている様々な資料のなかで、特に注目に値するのが“原稿催促の電報”だ。
上京して1年、がむしゃらに原稿を描いてきた満賀と才野は、多くの連載を抱えたまま夏休みを取って里帰りする。故郷で仕事をすればいいと思っていたが、気がゆるんでしまい、まったく筆が進まない。
そんな彼らのもとに東京の出版社から原稿督促の電報が届くのであった。

これは藤子不二雄両氏の実話にもとづくエピソードだが、なんとその電報の現物が本作には掲載されているのだ。
電報に印字された「ゲン(原稿)モツテスグコイ」の文面は心胆を寒からしめるものなので、ぜひとも誌面でその衝撃を体感してもらいたい。

この電報が現存することに、あらためて驚かされる。このような戦慄の電報は、常人なら“忘れたい過去”として破り捨ててしまうものだが、この時の後悔を忘れないためか、はたまた資料蒐集癖のなせる業なのか。
いずれにせよ藤子不二雄Aに対して、あらためて敬服の念を抱くこと必至だ。

ちなみに『まんが道』と『愛…しりそめし頃に…』には、事実とは異なる記述があったり、架空のキャラクター(激河大介など)も登場する。本作ではそれらへの言及も忘れていない。
『まんが道』と『愛…しりそめし頃に…』は、藤子不二雄Aの史実にもとづいているが、伝記物語ではなく、あくまで満賀道雄を主人公とするフィクション作品なのである。
それは物語の求めに応じた脚色であり、マニアであればその必然性についても思いを馳せながら読みかえしてみると、フィクションとしての魅力や豊かな物語性にも気づくはずだ。

完結から4年。満賀と才野が肩を並べて1冊のマンガを読みふけったように、この“完全保存版”のガイドブックを友として、今あらためて『まんが道』および『愛…しりそめし頃に…』を読むことをオススメしたい。



<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama

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