日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『クズの本懐』
『クズの本懐』 第8巻
横槍メンゴ スクウェア・エニックス ¥581+税
(2017年3月25日発売)
高校2年生の安楽岡花火と粟屋麦は一見理想のカップルだ。
しかし、本当はそれぞれ教師の鐘井鳴海、皆川茜が好きで、この2人がつきあい始めたことに傷つきながら、お互いに好きな相手の代理としてぬくもりを与えあう契約を交わす。
さらに、花火には同性の絵鳩早苗、麦には幼なじみの少女・モカ(本名・鴎端のり子)が想いを寄せるが……。
アニメ・ドラマと連動して連載完結し、まさに有終の美であった。
設定だけ聞くと、ダークすぎる恋愛模様に見えるが、これだけ人をひきつけたのは、“愛”や“欲”への突きつめた解釈ではないか。
文学のようでもあるが、その細かく、多面にわたる考察は、理系的ですらある。
かえって、恋愛を苦手とする人に読んでほしい。
“純愛”“自己愛”“性愛”……様々なかたちの愛が登場したが、最終巻に登場したのは“慈愛”。
とても純粋だが、人間らしい“独占欲”を欠いた、いびつなかたちにも思える。
だがその愛こそが、いちばん歪んでいてクズらしかった茜を変えた。
中盤では大団円も期待されたものの、意外なかたちでのフィナーレを迎えた。
しかし、丸く収まらず欠けたまま強く生きようとする花火は、これまで以上に美しい女の子に見える。
花火だけでなく、クズであることを自覚し、もがきながらせいいっぱい前に進んだ彼らは、すべて、咲き誇る花のようにきれいで愛おしい。
青年誌らしい過激さを織りこみつつ、少女マンガ以上の恋愛賛歌として、心に響く。
最後に、番外編が「月刊ビッグガンガン」において連載決定とのうれしいお知らせが!
もちろん気になるのは花火と麦のこの先だが、すっかりかっこよくなった早苗や、自立したモカのストーリーもぜひ読みたいところだ。
<文・和智永妙>
「このマンガがすごい!」本誌やほかWeb記事などを手がけるライター、たまに編集ですが、しばらくは地方創生にかかわる家族に従い、伊豆修善寺での男児育てに時間を割いております。