日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『おとうふ次元』
『おとうふ次元』 第3巻
森繁拓真(作) カミムラ晋作(画) KADOKAWA ¥600+税
(2017年3月23日発売)
『となりの関くん』の森繁拓真が原作、『ベクター・ケースファイル 稲穂の昆虫記』のカミムラ晋作が作画を担当した、SFシチュエーションコメディの最終巻である。しょんぼり。
『それでも町は廻っている』(これも終わってしまった)や『ヒナまつり』と並んで、今、もっとも続きを楽しみにしているSFコメディのひとつだったのに。
時空の改変を防ぐために200年後の未来から現代へとやってきたが、アクシデントによって帰還不可能になってしまった時空修復官ジン・トライ。
過去漂着者となった彼にあたえられた使命は、自らが時空改変の原因にならないよう、未来からの助けがくるまでとにかく目立たずに生きること。
かくして安アパートで暮らす謎の浪人生“寅井 仁”として身分を偽装し、ひっそりと暮らす算段を整えたトライだったが、すべてが論理的で無駄のない未来の“確かな時代(CLEAR AGE)”と比べて、現代社会はあまりにカオス。
何かちょっとした行動を起こすたび、跳ねあがりそうになる時変値(時空改変の予兆を示すバロメーター)を相手に、悪戦苦闘する羽目になるのだった。
第2巻からは、そんな彼の秘密を知る天才科学者&そのメイド(ツンデレかわいい)が準レギュラーに仲間入り。
第1巻から登場している、何かと時変値上昇のきっかけをつくるアパートの大家の波野さん(美しい)とその娘(愛らしい)も交えて、シチュエーションの幅もさらに広がった。
そうして迎えた第3巻なわけで……いや、ホント、期待どおりにおもしろいわけです。
カラスの知恵に全力で対抗し、複雑な女心に翻弄され、通販番組にあっさりと虜になり、ガチャガチャの理不尽さに憤るトライ。
事件が発生するたびにこねくりまわす論理的思考の、冷静にぶっ飛んでいる感じが愉快だ。周囲の人々が、そんな悩める彼をいじったり、助けたり、支えたり、困らせたりする様子も味がある。
本当に、いつまでもこの作品空間に浸っていたかった。
とはいえ終わってしまったものはしょうがない。また最終話の展開が、ウェットすぎず、かといってそっけないこともなく、端正にまとまっていてすばらしいのだ。「おとうふ次元」というタイトルの秘密も、きっちり明らかになる。これだけつくりこまれたものを見せられてしまったら、納得するほかない。
さみしいけど。
最初から最後まで、ギュギュッと中身の詰まった快作だった。
今、この作品を知ったという人、迷わずササッと全巻揃えるのが吉ですよ!
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei