『いいなりゴハン』第2巻
森繁拓真 集英社 \562+税
(2014年8月8日発売)
人のいいなりになってゴハンを食べるなんて、つまらないもの。食べたいものを、食べたい時に食べたいだけ食べる。それが一番、満足感も得られるのでは? と、そうも思いがちだが、それはそれでつまらないもの。
自分の枠をはみ出た、新しい何かには出会えないからだ。だまされたと思って人の言うままに知らない店にいき、食べなれないおすすめ料理を味わって堪能する。マンガもまた同じだ。普段手に取らないような作品でも、口コミで勧められてみたり、宣伝に押されてみたり、人のいいなりになって知る喜びもある。
本作『いいなりゴハン』は、『となりの関くん』の森繁拓真が姉のいいなりになって、勧められたうまい店を食レポをするという、“いいなり”グルメエッセイ。
完結巻となる2巻では、作者自ら店を開拓していく様子や、まわりの友人・先輩漫画家たちに勧められた店での彼らの“いいなり”っぷりが魅力だ。
盲目で柔順ということではなく、自然体で素直。疑心暗鬼で店や料理に臨みながら、食べれば「旨い」。絶妙な言いまわしをするでも、巧妙なうんちくを語るでもなく、ただただ普通に「旨い」。それだけじゃ味も何も伝わらないはずなのだが、作者の素直な人柄と態度がマンガからも読みとれるだけに、あぁ、本当にストレートにうまいんだなぁと納得してしまう。いや、「旨いしか言ってないでしょ! ほかにはないんすか!?」「グルメ漫画ってのは旨いリアクションが命ですよ」と、友人の押切蓮介先生には、作中でも叱られているのだけれど(笑)。
。エッセイマンガの主人公=作者は、巻き込み型・ツッコミ型が多いなかで、その裏をいっているところも、紹介されるリーズナブルで素朴な店・料理とあわせて味わい深い点。このマンガに“いいなり”になることで知れる楽しさが十二分だ。
ちなみに、今さらではあるのだけれど、おすすめ店を紹介して弟をいいなりにさせていた姉というのは、こちらもやはり漫画家で、エッセイマンガも手掛ける東村アキコ先生。東村ファンで、森繁作品はまだ未経験という人も、このレビューのいいなりになってぜひご賞味あれ。お姉さんのエッセイマンガとはまた違う味わいながら、楽しさは相通じるところで、新しいものに出会えるはずだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあMovie Special 2014 Summer』が6月5日に発売に。DVD&Blu-ray『一週間フレンズ。』ブックレットも手掛けています。