日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『ブーゲンビリア―小路啓之短編集―』
『ブーゲンビリア―小路啓之短編集―』
小路啓之 集英社 ¥630+税
(2017年3月17日発売)
表題作を含む、8本の未収録・未発表作品を収めた小路啓之の短編集『ブーゲンビリア』が上梓された。
『雑草家族』『10歳かあさん』などで知られる著者は、両作連載中の2016年10月20日、居住地の大阪から和歌山にサイクリングに出ていたところ、奈良市内で心筋梗塞を起こして転倒し帰らぬ人に。享年46。その死と才能が惜しまれることとなった。
つまり本作は、追悼短編集。
1997年にちばてつや賞を受賞してデビューした著者の初期の作品も収められているが、そのマンガ文体・文法はすでにして完成していて、最近の作品にも通じるいい意味で未完成な魅力にあふれている。
1本目に収録された「ファミリービジネス」は、一見、幸せで満ち足りているように見える家族が、ある突飛な行動に出るというお話。
また、2本目で表紙絵にもなっている「SWEET16」は、16歳にして初潮がまだ来ていない女子高生がひょんなことから周囲の秘密も知っていくというお話。
思いもよらない設定が、思いもよらない展開で描かれる。
日常ベースの物語でありながら奇抜な遊び心やあえての戯画化・省略化もある。
それをもってして異才ともいわれる著者だが、否、そうしたある種の飛び道具を用いながらも普遍的に刺さる作品を描いているがゆえ異才だ。
どの作品にも共通しているのは、闇や葛藤といういい方をしてしまうと逆に陳腐な人の心の奥底にあるもの。
問題に直面していればもちろんのこと、仮に大きな問題はなくても、現代社会に生きていれば人は屈託して鬱屈して屈折する。
そんなもやもやが流れ出していくことで物語も転んでいき、ハッピーエンドかアンハッピーエンドなのかはさておいて、大団円を迎える。
それを淡々とひょうひょうと描いているのも著者の味で、その作品群も目を見張るところだ。
読みやすいけれど、描かれているものはじつはかなりヘビー。
華倫変を思い出す。小路と同じくちばてつや賞でデビューしており、タッチは違えど、人間の奥底を大胆な設定のなかでフラットに描き出していた著者だ。
奇才・華倫変も2003年、28歳のときに心不全で逝去。死と作品性と偶然を重ねるつもりはないが、どちらも人間というものが見えすぎているくらいに見えていて、事実、人間を見据えている著者だった。
こんなすごい著者がいた。こんなすごい作品があった。
本作はあらためてそれを知る1冊だ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌『ぴあ Movie Special 2015 Spring』が3月14に発売に。映画『暗殺教室』パンフも手掛けています。