日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『雑草家族』
『雑草家族』
小路啓之 集英社 ¥630+税
(2017年3月17日発売)
2016年10月20日に、自転車事故で亡くなった小路啓之。
今年の3月17日に、マンガ連載まっただなかだった未完結作品『雑草家族』と『10歳かあさん』、そして単行本に収録されていなかった作品が短編集『ブーゲンビリア 小路啓之短編集』として、3冊発売された。
両親と6人の子どもが暮らしている、七草家。
その次女ハコベがレイプされ、ズタズタな姿で帰ってきた。
常識的な長男のセリは大困惑。
ところが妹たちと母からは、いっさい焦っている様子が見られない。
警察にいうべきか否か家族会議になった時、普段引きこもってまったく出てきたことがなかった父・ナナシが部屋から出てきた。
「父さんは家族一丸となって強姦魔達に復讐することを提案します!!」
色情魔の長女、無口な次女、武闘家の三女、世話焼きの四女……とラブコメ的キャラクターが揃っている七草家。
読み進めていくと、全員が一般的な人と比較してとてもシニカルで、感情的に欠損しているゆえにキャラが濃くなったのが見えてくる。
たとえば人を殴れない武闘家の三女。彼女が武道をたしなんで自分を律しているのは、相手に共感できずぐしゃぐしゃにしてしまうのではないかという、自分への恐れからだ。
セリ以外全員、感覚のネジが外れていたことが一気に明るみになる、七草家の面々。
復讐からスタートして、家族全員で犯罪への道に突進していく。
お先真っ暗なのにみんな、妙に楽しそうだ。
事件が起きてからのほうが、会話が増え、いっしょにいる時間が増えた。
こっちのほうが断然、家族“らしい”のだ。
“家族”と“犯罪”は、小路啓之が描き続けてきたテーマ。
人間は家族と向きあう時、一般的な感覚とまったく別のラインで感情が動くのではないか、という命題への探求だ。
顕著なのは「ごっこ」。
幼女を性的目的で誘拐してきた無職の青年が、彼女の父親になるために法律違反のオンパレードを犯していく様子を描いている。
何ひとつ擁護できない行動ばかりだが、ひとりの子どものために必死にあがく彼の姿は、どうにも責められない。
『雑草家族』は、“家族”の思考実験の集大成的な作品。破滅一直線の家族の様子は、不思議と微笑ましい。
だからこそ、未完なのがあまりにも悔やまれる。
未完ながらも、ひとつの答えにたどりついたところまでは描かれているので、もうひとつの家族の物語『10歳かあさん』と合わせて、小路ファンはぜひ見届けてほしい。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」