日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『飛行迷宮学園ダンゲロス -『蠍座の名探偵』-』
『飛行迷宮学園ダンゲロス -『蠍座の名探偵』-』第4巻
架神恭介(作) 猫井ヤスユキ(画) 双葉社 ¥600+税
(2015年11月27日発売)
舞台は、異能力者である“魔人”が存在するもうひとつの東京。
“魔人”の異能力により空中に浮揚させられた高校。脱出不能の閉鎖空間(クローズド・サークル)で“魔人”たちは生徒らを虐殺していく。
そこで学園に攻めこんだ“魔人”を殲滅すべく“転校生”が召喚された……。
本作は、架神恭介の小説『ダンゲロス』シリーズの第2弾『飛行迷宮学園ダンゲロス -「蠍座の名探偵」-』のコミカライズ作品である。
ごくフツーの高校生・鈴木三流(すずき・みつる)が通う天道高校は、教師や生徒にひとりも“魔人”がおらず、全国で一番安全な学校として知られていた。
その天道高校に希望崎学園の番長グループが押し寄せてきた。
希望崎学園は、手のつけられない“魔人”が全国から集められた高校で、入り口付近に張り出された「この先、DANGEROUS!命の保証なし」の横断幕から「ダンゲロス」と呼ばれ、畏怖されている。
“魔人”らは番長グループの生徒22名が殺害され、その現場に遺留品(天道高校のボタン)があったことから「犯人」の引渡しを要求し、出てこない場合に実力行使に移ると通告する。
もちろん「犯人」が名乗り出るはずもなく、“魔人”たちは異能力を用いて攻撃を開始する。特殊能力を持たない天道高校の教師・生徒たちは、なすすべもなく“魔人”たちに次々と殺されていく。
この“魔人”たちが個性的でじつに楽しい。
副番長の真野五郎は、学ランを着た、いかにも「不良学生」といういでたちで、投げたナイフが瞬時に目標に突き刺さる「瞬間移動ナイフ」という能力を持っている。
こうした正統派(?)もいるが、好きすぎて戦車と合体した少女・片平大砲(きゃたひら・かのん)や、見かけは愛くるしいのに毒を吐くポイズンジャイアントパンダ、といった色モノめいた者もいるのだ(むしろ、そちらのほうが多いか)。
こうした個性派ぞろいの“魔人”たちを束ねるのが番長・大銀河超一郎なのだが、彼がどんな能力の持ち主かは、なかなか明かされない。
この「能力」の秘密が、読者の興味をひきつけるのだ。
鈴木三流は、親友の白金遠永(しろがね・えんと)と教室を脱出するが、頼みの遠永は南崎シンリを庇って命を落としてしまう。
ショックを受ける三流だが、常に「白金遠永ならどうする」と考えて“魔人”たちの攻撃をかわしていく。三流の成長ぶりは目覚しく、最終的には、彼が“魔人”殺しの「犯人」を指摘するのである。
一方、南崎シンリは“魔人”たちを撃退すべく“転校生”の召喚を決意する。
“転校生”は“魔人”のなかでも一線を画した存在である。
依頼者の求めに応じて召喚され、「報酬」と引き換えにどんな仕事も引き受ける。
シンリが召喚した “転校生”は、大正時代の書生のような格好をした鵺野蛾太郎(ぬえの・がたろう)であった。鵺野蛾太郎は、もうひとりの“転校生”チグリスと協力し、殺人クワガタを武器として“魔人”たちを次々と屠っていく。
なお、“転校生”は仕事の「報酬」として人間をひとり要求するのだが、シンリがだれを「報酬」としたかは伏せられており、その謎も興味をそそるのである。
本書をミステリとしてみた場合、「犯人」の意思によりすべてが動くものではなく、「犯人」の行動にそれ以外の者の思惑が入り混じり、事件が複雑化しているパターンのものである。このようにややこしく絡み合った謎を三流は、みごとに解きほぐしていく。
しかも「犯人」を指摘しただけにとどまらず、その行動を掣肘する途方もない解決策を思いつくのであるが、それは読んでのお楽しみである。
ちなみに、第2巻の17頁でシンリが、三流に向かって強烈な嫌悪感を浮かべて「…あんたホモなの?」と毒づく場面がある。
初読のときには気づかなかったが、全4巻を読み通すと、シンリがなぜ憎悪をむき出しにしていたのかが理解できる。
再読して、こうした「発見」をさせてくれる作品は非常にうれしい。
<文・廣澤吉泰>
ミステリマンガ研究家。「名探偵コナンMOOK 探偵女子」(小学館)にコラムを執筆。現在発売中の「ミステリマガジン」2016年1月号(早川書房)にミステリコミックレビューが掲載。同じく現在発売中の「2016本格ミステリ・ベスト10」(原書房)にてミステリコミックの年間総括記事等を担当。