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『philosophia』 天野しゅにんた 【日刊マンガガイド】

2014/09/12


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『philosophia』
天野しゅにんた IDコミックス 百合姫コミックス \926+税
(2014年8月19日発売)


天野しゅにんたが2年にわたり発表した同人作品『philosophia』シリーズをまとめた、待望の一冊。

「なんかスゲー美人」なのに「今まで19年生きてきてずっと カレシの必要性を感じたことなんかない」「誰にも頼らず生きていける自立した社会人になるために大学にきた」愛。入学そうそう、合コンやマウンティングな女友だちとのつきあいに倦怠を感じていた彼女は、喫煙所で本好きの上級生・知と出逢い、喫茶店でともに時間を過ごすようになる。

コーヒーと煙草と本で彩られた、2人の世界。「先人が積み上げてきた思考のログで窒息してもいい」と口にするほど、知識を貪ることにひたすらで、どこか自暴自棄で醒めたところのある知に、やがて今まで経験したことがない感情を抱くようになる愛。
この気持ちがなんなのか、自分はなにを求めているのか? わからないまま、もどかしくて切なくて、混乱する愛に「私は愛と一緒にいるの楽しいと思うよ これ以上何をわかる必要がある?」とクールに諭す、知。

焦らしプレイ、ツンデレ、シガーキス、そして義母百合まで……。GLのツボはしっかりと抑えつつ、そんな様式世界をポンと超えて、2人の閉じた人間のピュアな交わりを精巧かつデリケートに描き出してゆく手腕。リリカルな思索にみちたセリフには、唸らされずにいられない!

「私、人を好きになるのはくだらないことだと思ってました ひとりで生きていこうと思ってました。でも過去形です 私は私が見下していた色ボケしていた人たちに謝らないといけません」という、愛の言葉も胸に沁みる。 過去のトラウマと向き合い、ついに互いの本心を確認しあった2人に訪れる、残酷な結末。穏やかな諦念とかすかな希望を感じさせるエンディングも秀逸。

百合かあ……と引いてしまう人にこそ読んでほしい、魚喃キリコ『blue』にも通じるエヴァーグリーンな一冊。



<文・井口啓子 >
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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