『ケンガイ』第3巻
大瑛ユキオ 小学館 \552+税
(2014年8月29日発売)
舞台は東京郊外の中規模都市(街並みから“府中”ということがわかる)にある大型DVDレンタルショップ。就職活動をあきらめてバイトを始めた23歳の伊賀くんは、1つ年上の先輩・白川さんにひと目惚れをする。
だが彼女はバイト仲間の男子たちから、(恋愛対象として)“圏外”と呼ばれ、疎まれる存在だった。
バイトが終わればマニアックな映画を朝までDVD鑑賞、休日は映画館に入りびたり、敬愛する映画評論家のラジオをニヤニヤしながら聴いている白川さん。古今東西の名作があふれるツ〇ヤ的な店で働いている女子だからして、特別変わった趣味というわけではないのだが、いわゆるリア充なヤングメンから見れば浮き上がった存在。彼女がバイト仲間の小島さん(もう一人の圏外/白川さんとはマニアック映画ファン仲間)とゲラゲラ笑いながら話している内容など、彼らにとって理解不能の極みであり、結果的に“深く関わらない”という方策がとられていく。
白川さんは奇行の目立つ変人ではない。仕事ぶりも至ってマジメで、顔だってかわいい部類だ。ただし映画関連以外にお金を極力使いたくないので、髪は伸び放題で化粧っ気はなく、飲みニケーションにも一切の不参加を決め込む。それでも適度なお愛想さえあればマニアックな映画ファンだからといって、圏外扱いされることなどなかっただろう。しかしながら彼女にとってみれば、恋愛とセックスにしか興味のないバイト仲間など“石ころ”も同然。だからして「圏外上等!」なのである。
そんな石ころのなかから突如現れたのが新人の伊賀くん。もともと伊賀くんはごく普通の青年だったが、白川さんに惚れてからは彼女の好きなもの(映画、俳優、評論家、ラジオ、雑誌)を必死になって吸収していく。それでも白川さんのATフィールドは強力で、ことごとく跳ね返されてしまう。
徐々に耐性がついてきた伊賀くんは、どうにか彼女の感情を揺さぶろうと躍起になる。そして彼女がなぜ生きづらい道を歩いているのか、禁忌ともいえるバックボーンに踏み込んでいくのだ。
はたして伊賀くんの存在は白川さんに変化をもたらすことができるのか? 一筋縄ではいかない終劇だが、後味は悪くない。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。東京都立川市出身。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。
「ドキュメント毎日くん」