日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』
『ToLOVEる -とらぶる- ダークネス』 第18巻
矢吹健太朗(画) 長谷見沙貴(脚) 集英社 ¥438+税
(2017年4月4日発売)
前作『To LOVEる-とらぶる-』からカウントして、10年以上の長きにわたり続いたシリーズが、ひとまず完結の時を迎えた。
10年といえば、作品のスタート時に生まれた子供が小学生に、中学生が社会人に、大学生がいい中年になる長さである(最後のケースがワタクシ。どうでもいいですが古手川派です)。
兄弟はもちろん、ひょっとしたら親子2世代でお世話に……もとい、楽しんだ読者もいるのかもしれない。
シリーズ展開の長さだけではない。連載中、その存在感が小さくなることがなかったことも驚きだ。
もはや“ToLOVEる”という言葉は、本作のタイトルであることを離れ、ネットを中心にラッキースケベの代名詞的に使用されている感もあり、つくづく破格のエロコメだったといわざるをえない。
このレビューを書きながら、あらためてその偉大さを噛み締めている次第である。
さておき、掲載誌を「週刊少年ジャンプ」から「ジャンプSQ.」へと移して展開された『To LOVEる -とらぶる- ダークネス』は、前作のヒロイン・ララの妹であるモモが実質的な主人公の役割を担い、彼女が前作の主人公であるリトを中心としたヒロインたちのハーレム設立計画を展開する姿を描いてきた作品だった。
そうした流れと並走して、“金色の闇”こと金髪ツインテール無口系最強ヒロインのヤミの出生の秘密をめぐるエピソードが展開されてもきたが、そちらに関してはこれまでの巻でひとまずの終結を見せており、この最終巻では作品の本筋に立ちかえっての物語が描かれていく。
ハーレムラブコメのオチというのは本当に難しい。
どのヒロインが“本妻”ポジションに選ばれてもほかヒロインのファンは不満を感じるが、一方で、結論をペンディングするのもそれはそれで腹が立つ。
昨今のハーレムラブコメのファンというのは、ヒロインとくっつく男がそのヒロインに見あうだけの度量や倫理観、才覚を持っているかに敏感なのだ。
選択してもしなくてもカドが立つ。この作品でヒロインを選ぶ立場にあるリトは、これまでそうしたハーレムラブコメ読者の厳しい視線を巧みにくぐり抜けてきた。
様々なヒロインにフラグは立てても、気持ちは一途。
連載開始時からいちばん好きなヒロインがだれかはまったくブレない。一夫多妻システムが合法的に作品のなかに用意されても、その基本姿勢は変わらず、最終巻においても貫き通された。
が、しかし。
そこでこの作品の物語は終わらない。ハーレムラブコメでひとりのヒロインが選択されたその先に、どんな物語が描きうるのか。
今作の示した結末は、“ToLOVEる”という作品のひとまずのオチとして見事なだけでなく、ハーレムラブコメというジャンルの想像力そのものを更新するほどのすばらしさだ。
作品のファンはもちろんのこと、ジャンルのファンにぜひ手に取っていただきたい。
<文・後川永>
ライター。主な寄稿先に「月刊Newtype」(KADOKAWA)、「Febri」(一迅社)など。
Twitter:@atokawa_ei