365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月9日はサッカー日本代表がW杯で初勝利をあげた日。本日読むべきマンガは……。
『最強伝説 黒沢』 第1巻
福本伸行 小学館 ¥505+税
今日6月9日は、サッカー日本代表が初めてW杯本戦で勝利を収めた日である。
2002年のこの日、日韓W杯のグループリーグH組の第2戦目として、日本代表は横浜国際総合競技場(現在の日産スタジアム)にてロシア代表と対戦。
0-0で迎えた後半6分、中田浩二が左サイドからクロスを入れると、ゴール前にポストに入った柳沢敦がそのボールをダイレクトで落とし、フリーになった稲本潤一が落ちついてゴール右上に決めて先制。日本代表は虎の子の1点を守りきり、W杯本戦で初勝利をあげた。
この劇的な1戦をテレビで観戦していたのが、『最強伝説 黒沢』(福本伸行)の主人公・黒沢である。
穴平建設の作業員である黒沢は、同僚たちとビールを片手にW杯に熱狂。
稲本の名前を「稲垣」と間違えて連呼する失態をおかしながらも人一倍盛り上がっていたのだが、その時、黒沢は「唐突に……分かってしまった…!」のである。
何に?
そう、「感動などないっ…!」ということにっ……!
以来、黒沢は「オレのオレによる、オレだけの」感動を求めて……、もっと具体的にいえば「人望が欲しい」という願いを叶えるため、様々な苦闘を繰り広げていく。44歳の中年独身男性が日々の生活のなかであがき続けるのだが、そこでのズレっぷりが本作の真骨頂。
「太郎っ…!」「アジフライ」「ハウルの動く城っ!」「オレにあるのは…スーパーカップ…!」など数々のパワーワードを生み出した、ゼロ年代屈指の名作である。 黒沢が必死になればなるほど読者は喜劇として見るが、黒沢本人は大まじめというところに本作の悲劇性がある。
だが、笑わば笑え。
黒沢こそ現代社会の欺瞞(ぎまん)性に挑み続ける21世紀のドン・キホーテなのだ。
「他人の祭り」には真の感動などないと悟った中年・黒沢が、どのような伝説を打ち立てるのか、刮目して見よッ!
今日6月9日は、「サッカー日本代表がW杯で初勝利をあげた日」ではあるが、「黒沢が覚醒した日」として認識したいっ……!!
なお、現在「ビッグコミックオリジナル」(小学館)では、続編の『新黒沢 最強伝説』が連載中。
あのオッサン、まだ戦っているぞ!
<文・加山竜司>
『このマンガがすごい!』本誌や当サイトでの漫画家インタビュー(オトコ編)を担当しています。
Twitter:@1976Kayama