日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『新黒沢 最強伝説』
『新黒沢 最強伝説』 第8巻
福本伸行 小学館 ¥552+税
(2016年8月30日発売)
44歳・金なし・彼女なしの土木作業員、黒沢のサエない悶々とした日常と、そこから一瞬、解きはなたれる輝かしい瞬間(といっても、職場のみんなの信頼を得るとか、中学生とのケンカに勝つとか)を描いた『最強伝説 黒沢』。
最終巻で惜しまれつつ死んだ!? と思われた彼が、8年間の昏睡状態からよみがえったという設定のもと『新黒沢 最強伝説』として復活してから、気がつけば単行本第8巻に突入。
大きな期待を胸に読み始めたものの、病院や河川敷のホームレス仲間とのなんの苦悩もカタルシスもないシーンがえんえん続いて、なんとなくフェイドアウトしていた人(筆者です)も、ちょっと待った~!
前巻で高僧・正念様と出会った黒沢。
本巻ではなんの因果か、その正念様と外務省の官僚らとともにアメリカのガス・ガソ兄弟をもてなす場に同行する――という、予想外の急展開に。
官僚らの国民の血税を浪費しまくったスペクタクルなわびさび演出とガス・ガソ兄弟のアメリカンな反応、それに対する黒沢の心のツッコミも楽しいが、真骨頂はやはり、その後の黒沢と正念様との禅問答的な対話。
「オレ樽の中にいたのか。そう考えると合点がいくよ これまでの人生」とうなずく黒沢を「その諦念が素晴らしい」とズレた過大評価をする正念様。
「これでもう十分じゃろ。必要ない花火など」と夜空に浮かぶ月を満足げに眺める正念様に対して、黒沢が「オレは欲しい! あの盛り上がり! 必要なんだよ 人生にはやっぱり花火も…」と心のなかで絶叫するくだりは、これぞ黒沢ワールド! と膝を打たずにいられない。
煩悩まみれのくせに、ムダに鋭い自意識を持つがゆえにただ生きるだけでは満足できず、悩み、あがいては空回りしてばかりの己のぶざまさを、日々痛感している人ならば「黒沢はオレ(私)だ」と共感必至。
福本伸行自身が、もっとも思い入れがある作品だと語る『黒沢』。
その「最強」の意味するものとは、はたしてなんなのか?
その答えを最後まで見届けるべし!
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69