365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
12月10日は福本伸行&黒沢の誕生日。本日読むべきマンガは……。
『最強伝説 黒沢』第1巻
福本伸行 小学館 ¥505+税
1958(昭和33)年12月10日は『カイジ』シリーズでおなじみ、ギャンブルマンガ界の皇帝・福本伸行の誕生日。
それと同時に福本が生み出した強烈なキャラクター・黒沢の誕生日でもある。2人とも今年で57歳だ。
孤独な中年男・黒沢の活躍を描いた『最強伝説 黒沢』は、「ビッグコミックオリジナル」2003年1号にて連載開始。それまでカイジやアカギを始め、鉄雄(『銀と金』)や涯(『無頼伝 涯』)といった若者たちの壮絶な生き様を描いてきた福本が、等身大の男を主役にすえて挑んだ意欲作だ。
ちょうど13年前の連載開始時点で、福本は44歳になった。
このタイミングに第1話もシンクロしていて、黒沢が居酒屋で迎える44歳の孤独なバースデーからスタートする。これがもう、なんともいえないほどのペーソスにあふれているのだ。
こんなにも心を揺さぶられる第1話がほかにあるのだろうか。興味のある方はアマゾンで試し読みができるので、ぜひ確かめてほしい。
黒沢は高校卒業時に穴平建設に就職し、四半世紀以上にわたって務めるベテランの現場監督。
だが出世レースからは脱落し、会社からは冷遇され、いまだに独身。だらしのない腹をさすりながら、人生に焦燥感を覚える毎日である。
そんな黒沢が一番欲しいものは、お金でも恋人でもなく「人望」だ。
黒沢は同僚たちから人望を得るべく、あれこれと策を練るものの、ことごとく空まわり。
黒沢の悲痛ともいえる叫びの数々は、大きな共感を呼ぶことになった。
じつは福本自身も高校卒業後、建設会社に就職して現場監督をしていた。だが仕事じたいはおもしろいと感じたものの、3カ月で辞めて漫画家を志すことになる(筆者が担当した『このマンガがすごい!2008』のインタビューを参照)。
早々に会社を辞めた理由を福本に聞いてみると、「長く働いて資格とかをとっちゃうと抜けられなくなるでしょう。それが怖かった。3年いたら危ないですよ。そのまま建設業界にズルズルいたかも」と答えている。
つまり黒沢は「18歳の福本が3ヵ月で辞めるという決断をしなかったら?」というifの姿なのだ。
2006年に連載は終了したが、黒沢の生死が判然としない最終回は物議を醸した。
だが、それから7年後の2013年、突如連載は再開(『新黒沢 最強伝説』)。8年間の昏睡状態から目覚めた54歳の黒沢が、リバーサイドの最下層でサバイブする姿を描いている。
はたして、いつになったら黒沢に幸せが訪れるのか。せめて還暦までには光が見えるといいのだけど……。
<文・奈良崎コロスケ>
マンガと映画とギャンブルの3本立てライター。中野ブロードウェイの真横に在住し「まんだらけ」と「明屋書店」と「タコシェ」を書庫がわりにしている。著書に『ミミスマ―隣の会話に耳をすませば』(宝島社)。