『それでも僕らはヤってない』第1巻
村山渉 芳文社 ¥590+税
(2015年7月16日発売)
「とりあえずソープへ行け!」
……とは、かの北方謙三が悩み相談で読者に答えた名解答。どうしても性体験のあるなしにこだわってしまう男女は多い。うだうだ悩んでいるくらいなら、さっさとソープへ行ってすませてこい! って理屈。
この作品に登場するのは童貞と処女ばかり。アラサーの男女。もっとも性体験の有無を気にする年齢だ。
たとえば大手住宅メーカーで働く時田は、童貞であることを悩んでいる。ある日、昔恋をしていた同級生に出会う。現在、彼女はバツイチ。ああ、人生経験の量が違う……ような気がする。
学費を稼ぐため働くキャバ嬢の芹沢。じつは三十路でサバを読んでいる。
ある日、彼女は時田の上司である小林に、ふとしたはずみで惚れてしまう。しかし小林は既婚者。
自分が処女だということがコンプレックスになっていたのか、思わず暴走して、彼とホテルに入ってしまう。
ふと我にかえる。これでいいの?
出てくる童貞・処女のキャラクターはみんな、「童貞力」「処女力」にあふれている。
コンプレックスゆえにあふれだす情動。泥臭い愚直さ。悩むことにきちんと向きあおうと必死になる姿勢。相手に対して真摯であろうとする、強い思い。
彼ら・彼女らの誠実さは、性体験の有無とは関係ない。まじめゆえに、安易に性を弄ばない生き方を選んできたのだから。
自分の信念で童貞・処女を守れない人間が、愛する相手を守れようか。
「ヤれない」と「ヤらない」の間には大きな違いがある。
まあそれでも、「もういいから、ソープにいけ!」って言いたくなるもどかしさがあるのが、このマンガのバランス感のうまさです。
<文・たまごまご>
ライター。女の子が殴りあったり愛しあったり殺しあったりくつろいだりするマンガを集め続けています。
「たまごまごごはん」