日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『悪魔を憐れむ歌』
『悪魔を憐れむ歌』 第1巻
梶本レイカ 新潮社 ¥640+税
(2017年5月9日発売)
2016年に刊行された『コオリオニ』を最後に活動停止を宣言していた梶本レイカが早々にうれしい復帰を遂げた。
『コオリオニ』はいちおうBLの範疇に入る作品ではあったが、男性読者からの支持も厚く……同作で著者のファンになった方にはこれまたド真んなか、濃厚なクライムサスペンスの第1巻が登場だ。
物語は、8年前に起こった連続猟奇殺人事件の現場から幕を開ける。
箱型のように体をあらぬ方向におり畳まれた死体の特徴から、「箱折」と呼ばれるこの事件。
道警は捜査の遅れを隠蔽するために、唯一の容疑者と目した道警の警察官・カガミを長期拘束し……カガミは精神を病み、容疑者の汚名を着せられたまま今も入院中で正気を取り戻せずにいるのだ。
主人公は8年たった今もこの事件を追い続ける刑事・阿久津亮平。カガミとは同期である。
とはいえこの事件をうやむやにしたい道警は捜査に消極的で、阿久津はたったひとりの「箱折専従班」。要は33歳の若さにして“窓際”扱いなのだ。
犯人は巧妙で、手がかりはまるで残されていない。遺体の写真について意見を求めるべく、阿久津は優秀な医師である四鐘彰久を訪ねるのだが……この邂逅が新たな事件を呼ぶことに!?
阿久津だけではない、様々な人々の視点や思惑が絡まりあい重厚なドラマをつくり出す。
「箱折」事件の道警の内情をスキャンダラスに書き立て、さらに事件に踏みこむことになるグラマラスな週刊誌のライター。不手際を徹底して闇に葬り、目障りな阿久津の邪魔をする道警上層部。道警の“子飼い”として情報提供をしている元刑務官のチンピラ。
全員がそれぞれにヤバい橋を渡っている!
愉悦の笑みを浮かべ、淡々と、手際よく人を死に至らしめるサイコキラーの描写にゾクゾク。
対する阿久津も単なる熱血正義漢ではなく、食えない男の匂いがプンプン。
こんなすごいマンガを描く人が引退しなくて本当によかった!
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
ブログ「ド少女文庫」