話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!
今回紹介するのは『百と卍』
『百と卍』著者の紗久楽さわ先生から、コメントをいただきました!
『百と卍』
紗久楽さわ 祥伝社 ¥680+税
(2017年2月25日発売)
文化が爛熟していた江戸時代、「陰間(かげま)」と呼ばれる少年たちがいた。
「陰間茶屋」にて囲われ、御座敷芸や床の相手をする、いわゆる男娼だが、女の衣装を身に付けた13、14~20歳頃の男性が務める。女性を相手にすることもあるが、男性客がほとんどだったそうだ。
稚児(ちご)、衆道(しゅどう)と並び、日本伝統の男色文化の歴史上に燦然と輝く(?)存在には、もちろん心ひかれる。が、「ちょんまげを結った男たちが繰り広げるBLマンガ」を楽しむのは、敷居が高い印象が否めない。
だが、『百と卍』では、その難しいモチーフを、卓越した画力と、まさに「神は細部に宿る」を体現した詳細な歴史考証、さらにポップなマンガ表現でカワイさをも入れこむという抜群のバランス感覚で、自信を持ってお勧めしたい逸品に仕上がっている。額の丸みも、ふんどしの結び目も、何もかもが色っぽい。
時は町人文化が栄えた文政末期。
ある雨の日、元陰間の百(もも)こと百樹(ももき)は、浅草の駒形堂にて行き倒れ同然だったところを、鬼を殺る武者の彫り物をした元火消の卍(まんじ)に拾われる。ふたりは義兄弟の契り(これも萌え要素!)を交わし、にぎやかな長屋で仲良くむつみ合うことに。
上方の出身で愛情深く、おっとりしている百は、卍にベタぼれで犬のように忠義を尽くす。伊達男の卍は笛の名手で、性格は俺様ツンデレといったところか。浮世絵から抜け出たような切れ長細面に江戸っ子口調がよく似合い、男気にあふれている。百は陰間のなかでは不人気で、冷や飯喰らいだったというが、卍に大切にされ、幸せに過ごす姿にほっこりする。
黄表紙を真似て遊ぶ時もあれば、風邪の看病のつもりが思わぬ事態になり……などなど、江戸情趣たっぷりのエロスが満載だ。それでいてハートマークや星が飛んだり、デフォルメキャラになったりと、テンポがよく読みやすい。