『かぶき伊左 壱』
紗久楽さわ KADOKAWA/エンターブレイン \620+税
役者を主人公にした作品から、演目を下敷きにした作品まで、数多くの歌舞伎マンガが描かれている。
本日はそんな歌舞伎の誕生を記念した「歌舞伎の日」だ。
そもそも歌舞伎のルーツとされるのは、出雲阿国(いずものおくに)という女性が創始した“かぶき踊り”。
江戸城で将軍・徳川家康や大名たちを前に、阿国が初めて“かぶき踊り”を披露したのが1607(慶長12)年2月20日で、それにちなんで本日が記念日となっている。
この阿国を扱った作品も、下元智絵『かぶき姫 -天下一の女-』、大和和紀『イシュタルの娘~小野於通伝~』、南美羽『阿国桜花抄』など多々あるが、本日紹介するのは、幕末の歌舞伎マンガ。徳川将軍の代も十三代を数える文久(ぶんきゅう)の時代を舞台にした、紗久楽さわ『かぶき伊左』だ。
さまざまな人気演目が生まれ、役者たちの熱気と色気にあふれていた江戸歌舞伎の全盛期を背景に、主人公・市村伊左衛門の役者道が描かれている。
伊左衛門は、威勢がよくて派手好きという、江戸っ子そのものの歌舞伎役者。
一方で、若くして芝居小屋(一座)を背負う主で、すべてを自分の芸に取りこもうとする貪欲さと繊細さをあわせ持つ役者バカだ。
そんな伊左衛門と周囲の役者・作家たちの生き様、そして江戸の風俗が粋に艶っぽく描きだされている。
登場人物や事柄は実際の歌舞伎役者・歌舞伎史を下敷きにしていて、歌舞伎の変遷も学べる一作。
“歌舞伎の日”にもってこいだ。
<文・渡辺水央>
マンガ・映画・アニメライター。編集を務める映画誌「ぴあMovie Special 2014 Autumn」が9月17日に発売に。『るろうに剣心 京都大火編/伝説の最期編』パンフも手掛けています。