『花の慶次 -雲のかなたに-』第1巻
隆慶一郎(作)原哲夫(画)麻生未央(脚) 徳間書店 \648+税
冬休みを過ぎていよいよ受験シーズンが始まった今日このごろ。そして、それを象徴するかのように使われる映像のひとつに「東大赤門」がある。
東大・本郷キャンパスの南西部、本郷通りに面している真っ赤な門、通称「赤門」はもともと加賀前田家の江戸藩邸に、現在の暦法に即して1828(文政10)年1月13日に建設されたもの。
第12代藩主前田斉泰が徳川家第11代将軍家斉の第21女、溶姫を迎える際に造られた「御守殿門」という門で、焼失しても再建不可というルールのため、ほかに現存するものがない、歴史的に貴重な建築物なのだ。
現在の石川県にあたる加賀藩の藩祖といえば、織田信長・豊臣秀吉に仕えた戦国武将として知られる、前田利家。
信長とはかぶき者(=派手な身なりで奇矯な行動をとる不良集団)としてともに青春時代をすごし、長じては猛将「槍の又左衛門」として活躍した利家のキャラクター性は、『信長協奏曲』をはじめ、多くのマンガでも知られるとおり。
その反面で、信長からもとは格下の同僚だった秀吉、さらには徳川家康と主と仰ぐ人間を次々と変えていく計算高くて世渡り上手な側面を持つ利家像を描いているのが『花の慶次 -雲のかなたに-』である。
奇抜なファッションに身を包み、2メートルあまりの巨躯で荒馬・松風を駆る豪放無頼なかぶき者・前田慶次の生き様を描いた本作中に、前田利家は慶次の義理の叔父として登場。慶次の養父から無理やり前田家の家督を継いだ利家は、自分とは対称的に人をひきつけるカリスマ性を持つ慶次に嫉妬心を燃やし、刺客を差し向けては失敗を繰り返すという、じつに損な役回りを引き受けている。
自分の存在が利家の心を乱していると悟った慶次は、第3巻で出奔を決意し、最後に利家に謝罪がわりの柚子湯をふるまう。このくだりの見どころは、慶次がしかけたイタズラに「あひゃひょわー!!」とやり込められる利家。詳細は、ぜひ実際に読んでいただきたい。
戦場にもそろばんを持ちこんだり(なんと現存してるらしい!)、とかく狭量で卑劣な印象の『花の慶次』の前田利家。その後のフィクションでの利家像に多大なる影響を与えたが、実際の利家は、かつて信長とも“そういう関係”だった長身のイケメンで、律義者との評判も高かったという。
傍若無人ないくさ人の慶次よりも、彼の魅力を知り、それに憧れながらも「俺だって」とムキになる利家に共感する人も多いのではないだろうか。
ちなみにこの赤門、差しわたしが数メートルで、実際に見ると映像で見たより小さく見える。ここから難関大学を「狭き門」とたとえるようになったという説もあるが、今年もその狭き門を通ろうと、多くの学生たちがラストスパートに余念のないことだろう。
受験勉強に疲れたアタマをひと休みさせるため、マンガなんていいんじゃない?
<文・富士見大>
編集プロダクション・コンテンツボックスの座付きライター。『衝撃ゴウライガン!!兆全集』(廣済堂出版)、『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、平成25年度「日本特撮に関する調査報告」ほかに参加する。