『イノサン』第1巻
坂本眞一 集英社 \515+税
1981年9月18日はフランスで死刑廃止法案が可決された日である。「死刑反対」を唱えて大統領に当選したミッテラン(当時)が提案し、国民議会の4分の3の支持を得て公約を果たす形となった。
そして、フランスの死刑といえばおそらくだれもが連想するであろう「ギロチン」が廃止されたのもこの時。というか、そんなに最近まで使われていたことに驚くのだが。
『イノサン』は、代々続く死刑執行人の家系に生まれたシャルル・アンリ・サンソンという実在の人物を主人公とする物語である。
ときは18世紀末、日ごと残忍な公開処刑が行われる。それを担う死刑執行人は、市民から忌み嫌われる存在だ。人一倍繊細で心優しいアンリは運命を呪うが、世襲である以上この職務から逃れる術はないのだった。
父が病に倒れ、いよいよアンリは15歳で処刑人として公衆の面前に立つことに。
じつは、アンリは史上2番目に多くの死刑を行い、かのルイ16世やマリー・アントワネットも手にかけたという。最初に受け持った処刑の場で哀れなほどに取り乱した彼がどのように運命を受けいれ、己の人生をまっとうしていくのかじつに興味深い。
精緻かつ耽美的な画風でありつつも大胆で極端、すなわちマンガ的な画面の雄弁さには、どのページを開いても圧倒されるばかり。ページの片隅の通行人一人ひとりにさえ血が通っているようなリアルな感覚に包まれ……静かな気迫に興奮をかき立てられるのだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。サイト
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