日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『史群アル仙のメンタルチップス ~不安障害とADHDの歩き方~』
『史群アル仙のメンタルチップス ~不安障害とADHDの歩き方~』
史群アル仙 秋田書店 ¥800+税
(2017年5月8日発売)
2014年、23歳の時Twitterに投稿した1ページマンガ「今日の漫画」が瞬く間に拡散され、一晩で何万人ものフォロワーを獲得。
ノスタルジックでかわいらしくも哀愁をおびた絵と、“愛”や“自我”といったテーマに深く斬りこんだ、ヒリヒリと痛々しくもピュアな真理をかいま見せる物語世界で、熱心なファンを増やし続けている史群アル仙の最新単行本。
かねてより、ADHD(注意欠如・多動性障害)をはじめ、様々なメンタル面の支障を抱えていることを公言していた著者が、自らの半生を赤裸々に綴ったものだ。
集中するのが苦手で思いつきで勝手な行動をしがちで、空気が読めないゆえに、幼少期からいじめられ、授業にもついていけず、中学を卒業したら高校に行かず、自分が一生懸命になれる道を探そうと決意するも、うまくいかず対人恐怖症に。
ネット依存に陥った彼女が、“引きこもり板”の仲間によって外へ出る勇気をもらい、愛犬にだれにもいえなかったことを声に出して語りかけることで自らの本心に気づいてゆくくだりには、人ってちょっとしたことでつまづくけど、ちょっとしたことで変われもするのだ……と、ハッとさせられる。
著者をあたたかく見守ってくれたアルバイト先の店長の「よくも悪くも人はひとりじゃないんやで」という言葉も重くもあたたかく、アル仙マンガの原点を確認する思いになる。
その後、彼女を絵やマンガの道へ導いた恩人であり、プライベートでも彼女を深く支えたボスこと菩須彦氏と出会うも、症状的には進退を繰り返し、さらに精神科の誤診によって薬漬けとなり、街中徘徊、自殺未遂、精神科へ……。
そんな壮絶極まりない自身の過去を淡々と描き出す語り口は、吾妻ひでお『失踪日記』を、そのどん底から自身の問題と徹底的に向き合うことで光を見出してゆく様は、永田カビ『さびしすぎてレズ風俗に行きましたレポ』にも通じるすごみを感じさせる。
彼女自身、「あくまで私、個人の体験です。」と注釈に書いているように、ADHDや不安障害とひと口にいっても、その症状や治療法には個人差があり、これ1冊で理解することはムリに違いないが、それでも彼女がいろんな本を読み、自分のミスと弱点をノートに書いて考えた“対策”は、じつに論理的かつ実用的で、ADHDの当事者や友人家族はもちろん、漠然とした生きづらさを抱えている人なら、大いに見習いたいものがある。自分を苦しめているものの正体は、よくも悪くも、だれのものでもない“自分だけの個性”でもあるのだから。
目を背けず直視して、そのくせを客観的に理解できれば、きっとうまくいっしょに歩いていく方法が自ずと見えてくるはずだ。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69