『臆病の穴』第1巻
史群アル仙 秋田書店 ¥600+税
(2015年8月7日発売)
ツイッターで発表した1ページマンガ『今日の漫画』が話題となり、同作でデビュー。
手塚治虫から大きな影響を受けたという昭和の趣を感じる画風も、わたしたちが知っているセオリーとは異なる結末への運び方も……どこかで見たようでどこにもなかった! 一見ノスタルジックで、そのじつオルタナティヴ。
本作は、普遍性と新しさを兼ねそなえる作家・史群アル仙が商業媒体で初連載したオムニバス短編集、第1巻である。
主人公たちはいずれも、心に満たされない想いをかかえたり、不遇な状況に苦しんでいる。
残酷な辛さや痛みをスピーディーに見せていく話法は、まるで“走馬燈”の如し!? 暗さと厭世観いっぱいのストーリー、しかし、あっと驚く救われないラストはときに勇気と多幸感をもたらす……なんとも不思議な味わいに満ちた作品群だ。
愛ってなんだろう、幸せってなんだろう? その答えは様々で、答えはないともいえる。
だけど、それを考えることは無駄ではないと……その問いと答えは日々の各々の暮らしのなかに潜んでいると、本作は語りかけているように思うのだ。
<文・粟生こずえ>
雑食系編集者&ライター。高円寺「円盤」にて読書推進トークイベント「四度の飯と本が好き」不定期開催中。
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