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『おとろし』 カラスヤサトシ 【日刊マンガガイド】

2015/08/15


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『おとろし』
カラスヤサトシ 秋田書店 ¥630+税
(2015年7月22日発売)


カラスヤサトシといえば、育児からカレーまで、自身の等身大の日常をユーモラスかつ自虐たっぷりにつづったギャグ・エッセイ・ショートの名手だが、そんな彼の新境地がこちら。
まさかのフィクション! しかも、まさかのホラー!である。

日本昔話の時代から昭和初期、そして現代までを舞台に、いわゆる幽霊妖怪の話というよりは、たんなる偶然の一致ともとれる人間の不安や妄想、理屈では説明できない不条理な事件や現象を描いた全24話。
読みながら思わず目を覆ってしまうような、これぞ!な恐怖シーンや描写はなく、つじつまがあわなかったり、最後まで謎が解き明かされないままの話も少なくないが、それがまた、妙にリアルで。
「あの世とこの世」「善と悪」「夢とうつつ」その境界をのぞき見たような後味の悪さに、読んだ後になって、漠然とした不安や恐怖がジワジワとこみあげてくる。

この卓越したストーリーテリングは、かの名怪談集『新耳袋』シリーズにも通じる感じ。(正直、あまりによくできた話ばかりなので、最初は著者オリジナルではなく、原作つきかと思ったほど)

もともと、シュールなオタク妄想とか、つげ義春よろしく「日常の中の異」を描かせたらピカイチの人ではあったし、悪いことがあれば「やっぱり○○の祟りかも」とうろたえ、いいことがあっても「いい気になったらバチがあたる」とみずからを戒めるといったカラスヤワールドには、「人間の業」とか「因果応報」といった概念がスリこまれていたようにも思う。

にしても、このそら恐ろしいまでの想像力たるや……。
そう、本作でいちばんコワイのは、ほかでもない、こんな話を考えついてしまう、カラスヤサトシ自身だ!
てなことすら言いたくなるほど、キレッキレのホラー短編集。

少し前に、ルポエッセイ『カラスヤサトシの怖いところに手が届く』も出たばかりだし、こりゃ、「カラスヤサトシといえばホラー」となる日も、近いかもしれません。



<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69

単行本情報

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