『カラスヤサトシの怖いところに手が届く』第1巻
カラスヤサトシ 集英社 \898+税
(2015年6月19日発売)
2015年上半期は「カラスヤサトシ」が“大漁”である。
いわゆる自虐系日常レポートマンガのジャンルではひとつの確固たるブランドを築き上げた感がある「カラスヤサトシ」印ではあるが、3月発売の『毎日カラスヤサトシ』第1巻と『オレは子をみて育とうと思う』を皮切りに、4月の『毎日カラスヤサトシ』第2巻と『カラスヤサトシの世界スパイス紀行』、5月の『カラスヤサトシ』第8巻……なんと5作品も立て続けにリリースラッシュが続いているのだ。
ラッシュの終盤、7月の『おとろし』(秋田書店)も勘定に入れればトリ前をつとめる『カラスヤサトシの怖いところに手が届く』は、怖いものがむしろ大嫌いな著者が相棒の担当編集・S本女史とともに古今東西の“怖さ”の根源を追い求める様子を描いた実録体験レポートだ。
お化け屋敷やホラーゲーム、寄生虫や地獄など“取材対象”は多岐にわたるが、彼の姿勢はどこか懐疑的で、ときおり見せるお得意のツッコミも“おそるおそる”といった印象を受ける。
それは、ふだん怪力乱神を語らぬ人間が暗闇に立った時に感じるプリミティブな恐怖心に似ている。
つまり、“ビビってる”のである。ガチで取材しているだけに。
しかしながら、そのビビりさえもカラスヤサトシにかかれば、りっぱな芸として読者を楽しませる。
怖ければ怖いほど、そして本気であればあるほど、おもしろくなる……。
酔拳みたいなマンガに出会ってしまった。
<文・富士見大>
編集プロダクション・Studio E★O(スタジオ・イオ)代表。『THE NEXT GENERATION パトレイバー』劇場用パンフレット、『月刊ヒーローズ』(ヒーローズ)ほかに参加する。