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『駄目な石』 平方イコルスン 【日刊マンガガイド】

2015/06/13


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『駄目な石』
平方イコルスン 白泉社 \780+税
(2015年4月27日発売)


帯に「声に出して読みたいコミックスです」とあるように、平方イコルスンは言語感覚の作家として語られやすい。

ほぼ女子高生で固められた登場人物の口にする、古風で持ってまわったな言葉づかいが生み出す異化効果。
日常の一部を切り取ったような、明確な導入や結末のないぶっきらぼうな時間のなかで、シュールな会話が何気なく繰り広げられる。

しかしあらためて、その作品群をまとめて読み通すことにより印象づけられるのは、予想外な言葉の組み合わせが魅せるユーモアの感覚以上に、女の子たちの会話のみで作品を成立させるためにこらされた、マンガ表現上のスタイルの厳密さだ。

本作には「楽園 Le Paradis」およびそのWeb増刊に掲載された26本のショート・ショートが発表順に、途中2本の描きおろし後日談4コマを加え並べられている。
そこでまずはページをパラパラとめくってみてほしい。
すべてのショートショートが「3段組」で構成され、また背景の多くが白と黒のベタないし紋様で塗り分けられた「イメージBG」になっていることがすぐにわかるはずだ。

つまりここでは、世の4コママンガと同様に、あえて3段組という制約を自らに課すことで、使用可能な表現の幅を限定している。
そしてその結果むしろ前景化してくるのが、会話を読ませるために駆使されたテクニックの側だろう。
事実、背景のなかで様々な形状を描き出す「白と黒の境界線」が、モノローグなしで交わされつづける会話を構成する、入り乱れたフキダシに戸惑う読者の視線を、正しい順番へと適切に誘導し、またそのことで会話のテンポまでをもコントロールしていることが見て取れる。

本来、物語によるけん引抜きに、読者を作品へと引きこむのは難しい。
そんななかで、女の子同士のコミュニケーションを主題化してきた萌え4コマを代表に、「ただキャラクターが会話しているだけで作品が成立する」という僥倖に出会うため、マンガはその表現上のテクニックを高度に洗練し続けてきた。 本作はその系譜に歩みをそろえる、貴重な一歩としてある。



<文・高瀬司>
批評ZINE「アニメルカ」「マンガルカ」主宰。ほかアニメ・マンガ論を「ユリイカ」などに寄稿。インタビュー企画では「Drawing with Wacom」などを担当。
Twitter:@ill_critique
「アニメルカ」

単行本情報

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