日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『さくらの園』
『さくらの園』第2巻
ふみふみこ 秋田書店 ¥600+税
(2015年11月6日発売)
『女の穴』、『ぼくらのへんたい』といった諸作を通じて、性に対する違和感やコンプレックス、心と身体の揺らぎを描いてきた、ふみふみこのSFファンタジー。
異形の生物たちが生息する、いつかの未来のどこかの地下世界。
全寮制の学校で暮らす女子中学生たちは、教師から「人類が地上に住めなくなり、本来は絶滅するところを運よく生きながらえさせて貰っているから、ケンカは御法度」と教育され、いっさいの性的なものから隔離されて育っている。
中学を卒業したら「ママ」になり、30歳すぎで寿命を迎えることを、ごく自然に受けいれ、冗談で笑いあったり、ケンカしたり、一見普通の女子中学生らしい青春を謳歌する彼女たち。
しかし、謎の転校生・リズの登場により、彼女たちに少しずつ変化が起きて――。
他者への、そして古い文献に記された、でっかくそそり立つ「ちんこ」への憧れ。自身の体の変化、体の奥からわき上がってくる未知の衝動に戸惑いながらも、それに突き動かされるように自我を持って行動しはじめる少女たち。
結局、「ちんこ」は万能の神でもなんでもなくて、奇跡は起こらず、彼女たちを取りまく世界は、何も変わらない。それでも彼女たちは、閉塞したディストピア的世界で新たな生命を産み落とし、「お空をとべるよちんこっこー なんでもできるよちんこっこ~」と歌いながら生きてゆく。
正直、もっと壮大な物語を期待していただけに、たった2巻で無限の可能性をもつ伏線を回収しきれない状態での完結はちょっと残念な気もするが、その「消化しきれなさ」が妙にリアルでもあり、読み終わったあとも読み手に想像をうながす。
ラストシーン。個々のちっぽけな思惑や喜怒哀楽を超えて、脈々と続いてゆく生物の営みの壮大さ、性に翻弄されながらも生理的に生きてゆく女たちのたくましさが、胸に残る。
<文・井口啓子>
ライター。月刊「ミーツリージョナル」(京阪神エルマガジン社)にて「おんな漫遊記」連載中。「音楽マンガガイドブック」(DU BOOKS)寄稿、リトルマガジン「上村一夫 愛の世界」編集発行。
Twitter:@superpop69