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『淋しいのはアンタだけじゃない』(吉本浩二)ロングレビュー! 「聴覚」をめぐる取材の果て――たどりついた“佐村河内守”という男

2016/07/20


話題の“あの”マンガの魅力を、作中カットとともにたっぷり紹介するロングレビュー。ときには漫画家ご本人からのコメントも!

今回紹介するのは『淋しいのはアンタだけじゃない』

『淋しいのはアンタだけじゃない』著者の吉本浩二先生から、コメントをいただきました!

著者:吉本浩二

現在進行形のドキュメンタリーマンガですので、作者の僕自身も緊張しながら描いております。
この作品を通じて、知ってるつもりで全然知らなかった『聴覚障害』について多くの方に知っていただけたら、そして、新しい感覚のマンガとして楽しんでいただけたら、たいへんうれしいです。

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『淋しいのはアンタだけじゃない』第1巻
吉本浩二 小学館 ¥552+税
(2016年5月30日発売)


『ブラック・ジャック創作秘話』の吉本浩二の最新作は、聴覚障害者をていねいに取材したドキュメンタリーマンガだ。
『ブラック・ジャック創作秘話』はとてもエキセントリックだったが、「廊下に疲労困ぱいのアニメスタッフが死屍累々」や「旅先から電話でリモート漫画執筆」など、マンガの神様の現実を写しとったこの作品もやはり「ドキュメンタリー」だった。

本作が誕生したきっかけは、東北大震災で被災した三陸鉄道の駅員たちのがんばりを描いた吉本の前作『さんてつ』だった。
震災応援イベントで聴覚障害者の方々と出会ったことを思い出して、マンガのテーマにしようと考えたという。吉本は日本福祉大学のご出身、だったというものの福祉とは縁遠い職歴であったというから、不思議な縁だ。

聴覚とは何か? 身近すぎて考えもしなかった「音を聞く」仕組みが、ていねいに解きほぐされている。聴覚障害にも軽度難聴、中度難聴、高度難聴と段階があること。生まれつき聞こえない「聾者(ろうしゃ)」もいれば、言語習得後に聞こえなくなる「中途失聴者」もいること。「聴覚障害」とひとくくりにできるわけもなく、事情は人それぞれであると。

至極ていねいに描かれる聴覚のシステム。しかし、音の伝達と個々の「聴こえ」には大きな差があるという。

至極ていねいに描かれる聴覚のシステム。しかし、音の伝達と個々の「聴こえ」には大きな差があるという。

一人ひとりに向きあって取材した成果は、目からウロコが落ちることばかり。「密閉されたガラス張りの中にいる」聴覚障害者の苦労は、普通に暮らしているなかではたぶん知ることはない。
聴覚障害は杖も持たず車いすもないため「見た目」ではわからず、存在にさえ気づかれないのだから。

聴覚障害者はひとりだけという職場も多く、「(手話で)しゃべりたい」という欲求もなかなか満たされない。
ラブホテルでの失敗談などは笑い話でんでいたが、消防車のサイレンも聞こえず火事から逃げ遅れかけた逸話は背筋が寒くなる。目からウロコというより、真実を隠した薄皮が一枚ずつはがれ落ちる思いだ。

「聞こえない」以上に「聞こえてくる音」、つまり耳鳴りも深刻な問題だ。
頭の上にずーっとジェット機がいる、大型トラックのクラクションを鳴らされ続ける…医者も「慣れるしかない」といい、一生つきあっていくしかないという。

単行本情報

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