日々発売される膨大なマンガのなかから、「このマンガがすごい!WEB」が厳選したマンガ作品の新刊レビュー!
今回紹介するのは、『夜明け前のうた』
『夜明け前のうた』 第1巻
花本鹿乃子 講談社 ¥429+税
(2017年5月12日発売)
自分のやりたいことをやる。ただ思うままに今を生きる。
じつはこれ、“いうは易く行うは難し”案件のうちでも、かなり上位にランキングされるのではなかろうか。
さてここに、それをやってしまった少女がいる。
鈴宮渚、高校3年生。
これまではおとなしい優等生だった彼女が、ある日いきなり髪を金髪に染め、担任教師である羽鳥に突然口づけたのだ。
そして渚は羽鳥を脅し(?)、強引に富士登山に同行させ、さらには2人で夜の学校のプールに忍びこむ始末。
羽鳥は渚に振りまわされ続けるが、彼女にはどうしても今、それだけの無茶をしなければならない理由があった。
渚はすでに、死の宣告を受けていたのだから――。
これはとても誠実で透明な物語だ。
自分の命の限界を知った渚は、ものすごい勢いで前へ前へと進んでいく。
それに煽られるかのように羽鳥もまた、一度捨てた夢を再燃させる。
2人はただ、自分の心に素直に生きようとする。
そして、常識や世間体というのがどれほどつまらないか、そのくせ人はどれだけそれらに縛られているかを教えてくれる物語でもある。
人はいつ死ぬかわからないのだから、今を生きるしかない。
しかしそれを意識して生きている人は、ほんのひと握りではないだろうか。
この作品は、独特の熱っぽさと優しさで、“今ここ”のすばらしさを教えてくれる。
人を鼓舞するエネルギーを秘めた1冊。ぜひご一読のほど。
<文・山王さくらこ>
ゲームシナリオなど女性向けのライティングやってます。思考回路は基本的に乙女系&スピ系。
相方と情報発信ブログ始めました。主にクラシックやバレエ担当。
ブログ「この青はきみの青」