『放課後ウインド・オーケストラ』第1巻
宇佐悠一郎 集英社 \438+税
3月31日はオーケストラの日。
世界的な記念日ではなく、日本オーケストラ連盟が定めたもの。多くの人が音楽に親しみ、オーケストラを身近に感じてほしいという願いをこめて、「ミミにイチバン」を合言葉に全国「33(ミミ)」のプロオーケストラが全国各地でさまざまな公演を行う。
チケットはほとんどがリーズナブルな設定。なかには無料イベントもあるので、今からでもチェックして足を運んでみてはいかがだろうか。
さて、オーケストラをモチーフにしたマンガといえば『のだめカンタービレ』や『マエストロ』といった大ヒット作が思い出されるが、今回は「隠れた名作」といえる作品を紹介したい。
「ジャンプスクエア」創刊当初に連載された、『放課後ウインド・オーケストラ』だ。
主人公は名前のとおり、平凡を愛する少年、平音佳敏(へいおんよしとし)。そんな彼が選んだ高校は、学校の成績やスポーツの大会など、あらゆる面で目立たない千代谷高校である。
趣味は睡眠、万年帰宅部の佳敏は、高校生になっても気配を消して日々を過ごすつもりだったが、吹奏楽部に入部を希望する同級生の藤本鈴奈(ふじもとりな)と関わったことから、学園生活が一変。とある理由で廃部になっていた吹奏楽部を再建するため、なりゆきで部長になることに……。
やがて佳敏は鈴奈と同じくトランペットを吹き始め、少しずつ部員も集まってチヨコー吹奏楽部は新生する。
本来は高校の部活などに興味のないはずの天才トランぺッター・月川海澄(つきかわ・かすみ)が、佳敏たちのために何かと尽力し、つかず離れずのポジションで活躍するのが物語のキモだ。
作者の宇佐悠一郎は女性であり、男性目線のエロ展開は皆無。ご都合主義の恋愛展開に持ちこまないことや、佳敏がもともとトランぺッターとしての潜在能力を秘めていて……といったありきたりな覚醒モノにならない点もいい。
全員がひとつひとつ課題をクリアしていくことで、まとまりを見せていく様が丁寧に描かれる。
しかしながら、部員たちのキャラがようやく立ってきて、初めてのコンクールを終えて、「さぁ。これから!」というところで完結しまったのは残念至極。
チヨコー吹奏楽部のみずみずしい音楽と、またどこかで会える日を楽しみに待ちたい。
<文・奈良崎コロスケ>
68年生まれ。マンガ、映画、バクチの3本立てで糊口をしのぐライター。中野ブロードウェイの真横に在住する中央線サブカル糞中年。4月4日公開・松尾スズキ監督『ジヌよさらば~かむろば村へ~』の劇場用プログラムに参加します。
「ドキュメント毎日くん」