365日、毎日が何かの「記念日」。そんな「きょう」に関係するマンガを紹介するのが「きょうのマンガ」です。
6月27日はうまい棒を製造している会社の工場のひとつが全焼した日。本日読むべきマンガは……。
『だがしかし』 第1巻
コトヤマ 小学館 ¥429+税
うまい棒。
サクサクの食感、遊び心あふれる風味のバリエーション、そして1本あたり税抜10円のお手頃価格がうれしい駄菓子の王道。
駄菓子屋がめっきり減ってからも、スーパーマーケットやコンビニに販路を広げたおかげで、目に留まる機会は今なお多く、子どもから大人まで広く支持する定番商品として40年近い歴史を現役で刻み続けている。
そんな「気がつけばいつもそこにある」存在のうまい棒が、ふだんとは違うかたちで我々の意識に触れたのが9年前の今日、2008年6月27日のことだった。
この日の午後2時すぎ、茨城県の常総市にあるお菓子製造会社「リスカ」の工場で火事が起きたというニュースが報じられた。
スナックを乾燥させるための機械が火元となり、鉄骨スレート葺きの施設およそ1350平方メートルが全焼。
原料として工場に置かれていたトウモロコシや食用油も焼失してしまったのだが、当時そこで製造されていたのが「うまい棒」だったという情報が添えられたことで、全国的にお茶の間の関心を集めるトピックとなった。
私はお菓子業界にうとかったので、当時「あれ、うまい棒のメーカーって“やおきん”じゃなかったっけ?」と一瞬首をかしげたのだが、やおきんは販売で、製造がリスカだったんですねー。ひとつ知識がつきました。
ちなみに、火事になったときに製造されていたうまい棒はタコヤキ味だったとのこと。
タコを焼かずに工場が焼けたという……いやもとからタコは焼いてないな。
さて、知名度が高いだけあって、うまい棒はマンガやアニメでもお菓子を食べるシーンでしばしばパロディ商品として登場する。
たとえば『銀魂』第13巻収録の第108話はサブタイトルが「んまい棒は意外とお腹いっぱいになる」、アニメなら『探偵オペラ ミルキィホームズ』でネロがいつも帽子のなかから取り出して食べるのが「うまうま棒」、あの大ヒット作『魔法少女まどか☆マギカ』第9話で杏子がまどかに手渡したのが「うんまい棒」……など、ひと目見てすぐ「あ、うまい棒だ(笑)」と一笑できるネタ元として存在感を発揮している。
しかし、権利を持つ会社があるだけに、パロディ抜きで本物の「うまい棒」が描かれる作品となると、とたんに超レアとなる。
その滅多にない貴重な例が、「週刊少年サンデー」連載の人気作『だがしかし』だ。
田舎のさびれた駄菓子屋のひとり息子・鹿田ココノツが、彼に店のあとを継がせようとする大手お菓子メーカーの社長令嬢・枝垂ほたると駄菓子トリビア合戦や童心に訴える遊びを繰り広げる日々を描いた“駄菓子マンガ”である本作の特徴は、劇中に出てくるお菓子がすべて関係各社に協力をとりつけて登場させた実在の商品という点にある。
そのなかで、うまい棒は最初期の第2話、お菓子紹介のエピソードとしては1番目に出てくる。
うまい棒を「キングオブ駄菓子」と讃えつつ、別々の味を2~3本組みあわせて食べることで自分だけのメニュー創作を楽しむほたるさんとココノツくんの姿を通して、なるほど『だがしかし』とはこういうマンガなのだな、と読者にビシっと理解させる重要な役割を果たした。
今日はうまい棒にとっては不幸な出来事が起こった日だが、だからこそ、その価値を見つめ直せるマンガを読んでみるといいかもしれない。
<文・宮本直毅>
ライター。アニメや漫画、成人向けゲームについて寄稿する機会が多いです。著書にアダルトゲーム35年の歴史をまとめた『エロゲー文化研究概論 増補改訂版』(総合科学出版)。プリキュアはSS、フレッシュ、ドキドキを愛好。
Twitter:@miyamo_7